■ビジョン・イノベーション・コンセプトについて:山田壮夫『コンセプトのつくり方』
1 意味不明の概念
チームのリーダーになった若者が、上司からビジョンという言葉で、あるスローガンを提示されて、ほとほと困っていました。若手のリーダーも、ビジョンという言葉は聞いたことがあります。しかしどんな意味で使っているのか、わからないというのです。
明確に定義するのが難しい言葉といえます。他の言葉との関連もありますから、どういう概念で使っているのかは、その人ごとに違った意味になりがちです。コンセプトという言葉も、同様の言葉と言えます。いずれもマネジメントの手法にかかわる用語です。
乱暴な言いかたをするならば、マネジメントが上手くいくならば、その考えは間違っていません。成果が評価に反映されます。ここでのポイントは、生み出した付加価値のことです。そうなると、イノベーションをどう考えるかが大切になってきます。
2 イノベーションの定義
イノベーションとは、どんなものなのか、定義は様々です。山田壮夫『コンセプトのつくり方』では、「ひとの行動・習慣・価値観にもう元に戻れないような変化をもたらすモノ・コト」と定義しています(p.15)。私にとって、これが一番優れた定義です。
山田はイノベーションには、「その手があったか!」「(言われてみれば)そりゃそうだよな」というコンセプトが必要だと言います。「切る食器」「刺す食器」「すくう食器」といった[他のものと区別し、認識すること]を可能にする概念がコンセプトです(p.16)。
つまり、ある領域を浮き上がらせる「サーチライト」がコンセプトだと言えます。これはタルコット・パーソンズの考えをもとにしたものです。こうした前提から、山田は「イノベーション=サーチライトの照らし直し」だと説明しています(p.20)。
3 ビジョン・課題・コンセプト・具体策
たとえば[「サウスウエスト航空」のコンセプトは「空飛ぶバス」でした。そしてこのサーチライトによって、この航空会社がやるべきことが直感的に示されました](p.20)。こんな素晴らしいコンセプトは簡単には出てきませんから、偽物が氾濫しています。
優れたコンセプトであるかどうかの判定基準は、「身体的に進むべき方向を直観できること」(p.24)です。ここには前提があります。進むべき方向が決まっていることです。方向が決まっているからこそ、領域の絞り込みをするサーチライトが必要になります。
この方向こそが、ビジョンだと言えます。「現実的な理想」です。ビジョンを現実のものにするためには、解決すべきボトルネックとなる「課題」を見出す必要があります。そして[この課題を解決する新しい視点が「コンセプト」]ということです(p.36)。
山田は「ビジョン・課題・コンセプト・具体策」を「マネジメント軸の四つの箱」としています。これが唯一のものではないでしょう。しかし成果を上げる人には、たいてい自分流の思考法があります。山田も成果を上げてきたのでしょう。ヒントになる本です。