■日本語の「ルールを理解して身につけるための本」を目指して

     

1 読み書きに役立つトレーニング

あわただしいお話ですが、テキストを送付した後、それを使う講義の準備をしながら、また別のテキストを作り始めました。今度は、日本語を書くことに関する講座です。今年から新たにスタートします。日本語の文法にかかわる分野ですから、簡単ではありません。

生成AIの進歩により、日本語能力が従来以上に問われるようになってきました。若者の中でも意欲的な人は、日本語をきちんと習っていないのが心配だと言います。別に珍しい話ではありません。日本語の文法が整備されていませんから、率直な感じ方でしょう。

たしかに読み書きに役立つトレーニングが実践されていません。清水幾太郎が『論文の書き方』で、フランスの小学校の事例を示していました。文法的な分析が導入されているのです。こういう文法が作られないと、読み書きの基礎が確立しない気がします。

       

2 「ルールを調べるための本」と「ルールを理解して身につけるための本」

英語の場合、どうなっているのか…そんなことが気になります。英文法は産業革命に伴う専門職不足の際、文書作成の能力増進に役立った旨、渡部昇一は『英文法を知ってますか』などで書いていました。記述に役立つルールと仕組みがあるということです。

日本人の書いた定番の英文法書といわれる江川泰一郎『英文法解説』があります。きちんと読んではいませんし、評価する能力もありません。しかし持っています。同じ著者の『英文法の基礎』の「解説者はしがき」をみて、引っ張り出してきました。

解説者の薬袋善郎(ミナイ・ヨシロウ)によると、英文法書には「英語のルールを調べるための本」と「英語のルールを理解して身につけるための本」があるとのこと。前者が『英文法解説』、後者が『英文法の基礎』になります。両方の系統の本が必要になるようです。

     

3 網羅的な本から入門書へ

網羅的な本を書くのは、大変なことでしょう。江川の場合、『英文法解説』を1953年に初版を出しています。これに対して、入門書にあたる『英文法の基礎』の初版は1956年だそうです。何となく、こういう順番で書かれるのが自然な気がします。

きっちりすみずみまで、ご本人が理解しているからこそ、入門書が書けるのでしょう。江川は「上巻 はしがき」で[中学一年程度の英語を習ったことのある人なら、だれでも読める]と書いています。フランスの小学生が使った文法レベルかなと思いました。

このくらいシンプルで、実際に使える「ルールを理解して身につけるための本」が日本語にも、あればよいなあと思います。一方、「ルールを調べるための本」はいくつかありますが、賛同できる内容になっているものが、いまだに見つからなくて残念です。

いま、読み書きのトレーニングに役立つテキストを作ろうとしています。いままで小学生からビジネス人まで、かなり幅広い人たちに中核部分の実践をしてもらいましたが、まだ十分とは思っていません。より効果の上がるものにしていけたらと願っています。