■失敗があるから成果が上がる:マニュー・サイド『失敗の科学』から
1 失敗が多いという自由市場の優位性
マニュー・サイド『失敗の科学』は2016年に出た本ですが、未だに読まれています。多くの方が読んでいる本ですから、様々な点に関心がもたれてもおかしくありません。題名からすると、この本によって失敗を減らせるだろうと期待が持たれることでしょう。
ただ、もし失敗を減らすために役に立つ本は何かと言われたら、畑村洋太郎の『失敗学のすすめ』をお勧めしたいと思います。失敗からどう学ぶのか、個々の人が何をすべきなのかという点において、『失敗学のすすめ』は古典になっていく本かもしれません。
マニュー・サイドの『失敗の科学』は、少しアプローチの違う、魅力的な本です。たとえば[自由市場のシステムは、失敗が多くても機能するのではなく、失敗が多いからこそうまくいくのだ](p.156)と指摘しています。そうなると、仕組みが問題になるでしょう。
2 試行錯誤という王道
失敗があるという前提から、試行錯誤という方法が王道になります。サイドは[革新的と言われる企業の多くは、進化のプロセスを意識した戦略を取り入れている](p.156)というのです。では具体的には、私たちは、どう動いたらよいのでしょうか。
イギリスの産業革命で、[世界を変えたこれらの画期的な機械は、地道な試行錯誤の末に発明された。科学者ではなく実践的な知識を備えた職人たちが、生産性の壁を打破するために、失敗と学習を繰り返しながら開発に取り組んだ](p.158)という点が大切です。
理論が先にあって、そこから発明したのではないという点が強調されます。[試行錯誤がテクノロジーを生み、そこから新たな科学理論が誕生した](p.159)という考えを採るのです。これは技術に限らないように思います。理論は後からついてくるのが自然です。
3 小さな改善の積み重ね
当然のことながら、[筋金入りの実践派にも、ある種の概念的な枠組みは必要]でしょう。[テクノロジーの進歩の裏には、論理的知識と実践的知識の両方の存在があって、それぞれが複雑に交差しあいながら前進を支えている](p.160)というべきでしょう。
試行錯誤の経験を実践に活かして事を成すということがある一方、[新たな理論が直接の引き金となって、技術革新が進んだケースも多い](p.160)のは事実であると、サイドは記しています。その通りでしょう。しかし、こちらが主流ではないかもしれません。
ツール・ド・フランスで1903年以来、イギリス人の総合優勝者がいなかったとき、[2009年、ブレイスフォードは新たな挑戦を始めた](p.212)、[彼は「5年以内にツール・ド・フランスで優勝する」と宣言し](p.213)ます。実際には2012年に実現しました。
何が大切だったのか、[ブレイルスフォードに直接その質問をぶつけてみた。「小さな改善の積み重ねですよ」彼の答えは明快だった]。ゴールを設定し、[一つひとつ改善して積み重ねていけば、大きく前進できる](p.213)のです。これが王道だと思います。