■理解できない理論とのつきあい方:野中郁次郎の本をめぐって
1 『失敗の本質』の良さがわからない
野中郁次郎の「『失敗の本質』を語る」という本について、以前触れたことがあります。そのとき『失敗の本質』について言及していませんでした。特別、意識してのことではなかったのですが、この本が名著と言われているために、敬遠していた気がします。
率直なところ、この本を高く評価する理由が、よくわからないのです。途中から、飛ばし読み程度になって、これはいけないという感じになりました。わからないまま、あれこれ語ることは、やめておきたいということにすぎません。これは仕方ないでしょう。
相性がよくないのかもしれません。暗黙知についても、形式知とは別個の独立したものだという意識があるため、[暗黙知を形式知に転換する](p.155:前掲「…語る」)と言われると、わからなくなります。脳の機能からすると、無理がある気がするのです。
2 理論から成果を上げられるのか?
こうしたわからない本は、野中理論に限ったわけではありません。専門書のほとんどは、わからないと言ってよいほどです。当然、わからないからダメな理論だとは言えません。わかった範囲で言うと、違う気がするということにすぎないのです。
暗黙知の定義が違うようですから、このあたりはもう無理に調整しなくてもよい気がしました。野中理論は、野中の定義において成立するのなら、それでよいでしょう。しかし、どうやって使うのかとは思います。これで成果が上がるのでしょうか。疑問です。
本来なら他の理解できない専門家の理論と同じ様に、サヨナラすればよかったのですが、野中理論をとても高く評価する人がいて、また気になりました。野中の1991年の論文「知識創造企業」に加えて、山口一郎との共著『直観の経営』を手に取っています。
3 ごく一部を理解した段階
野中の論文はすでに読んだことがありました。『ナレッジ・マネジメント』というハーバード・ビジネス・レビューの論文を集めた本に所収されています。『直観の経営』は、フッサール哲学の研究者である山口一郎とのやり取りから成り立った本です。
野中はフッサールの哲学理論に興味を持ち、山口を訪ねていき、それから20年後にできた本ですから、ずいぶん詰められた本に違いありません。実際、この本にある解説の方が、わかりやすい気がします。野中は、以下のように語っています。
▼私の提唱した知識創造理論は、それまで組織は「情報処理装置」だ、としてきた経営学に対して、組織は「知識を創造するエコシステム」だ、という考え方で再定義をしたものです。 pp..15-16 『直観の経営』
わかるのは、[ノウハウやタイミング、コツなどという暗黙知を「共同化」し、組織内においてそれを共有する(=表出化)](p.16)というところまで。[形式知とつなげて体系化(=連結化)]以降がわからないと理解した段階です。時間がかかりそうな気がします。