■根本的な改革・新しい発想を活かすために:典型的な失敗事例

     

1 リニューアルが必要な仕事

サービス業に従事する知り合いから、いささか困った、という連絡が少し前にありました。売り上げが落ちていて、製品もサービスもリニューアルしないといけなくなっているとのこと。ところが会社では、そちらに力を注いでいないというのです。

その時、会社とは別に、具体的な製品やサービス方法の改革を考えてみてはどうか、と言いました。自分で勝手気ままに、いくつかの提案ができるように考えておけばいいではないかということです。その後、知人はあれこれ考えて、提案をまとめていました。

リーダーになる人は、他の人よりも危機を早めに感じ取るようです。その後、業績が落ちてきたとの認識が広がって来たとのことでした。危機感がうまく働くのではないかと期待していたのですが、知人の提案が出される前に、会社から改定案が出て来たそうです。

     

2 提案前に値上げが決定

おそるべきことに、製品もサービスも、ほぼ現状のままに値上げが決まったとのことでした。いくつかの変更を「改善」点にあげて、その点をアピールするようにとの話があったそうです。これで知人は、やる気を失っています。先が見えてきたと言っていました。

本人の話によれば、コストを上げずに、製品の質を下げない方法がある旨、すでに話をしていて、会社側も具体的に考えたいということだったようです。若干、お手伝いをしましたので、サービス方法も含めて、かなり良い提案になりそうだと思っていました。

会社側には、競争力から考えてコストアップに耐えられるだろうという判断があったのでしょう。その点、間違いとも言い切れません。たぶん仕事はなくならないはずです。しかし勝ち抜くチャンスにはならないでしょう。危機を活かせなかったのは残念なことです。

     

3 新しい発想ができるリーダーのやる気

同じようなケースがあったはずだよ、以前にそんな話を聞いた記憶があるよと、そのとき答えたのですが、具体的に思い出せませんでした。記憶というのはあてになりません。別件で手に取った『大前研一 洞察力の原点』のなかに、その言葉がありました。

▼無能な経営者ほど問題点を列挙して、その逆をしようとします。「改善」にはつながるかもしれませんが、会社を根本的に改革することにはなりません。業績不振に陥った会社に必要なのは新しい発想であり、新しいビジネスの育成です。その点をはき違えている人が多い。 p.128

大前は『Voice』2003年6月号で、このように語っていたそうですが、この言葉だけを前掲書で読んだため、前後の文脈はわかりません。ただ、「改善」にもならないうえ、根本的な改革にもならず、新しい発想も採用しなかったのは確かです。

こうしたケースをすぐそばで見ていると、一番の問題は、新しい発想の提案をしようとした有望なリーダーのやる気を奪ってしまった点にあるように思います。危機をばねにして、よしやるぞという気持ちがあったのです。心配しながら、いま様子を見ています。