■宇沢弘文のフリードマン批判は正しかったのか:対談での発言から探る
1 フランク・ナイトのリベラリズム
日本には世界的な経済学者はあまりいません。数少ない一人に宇沢弘文がいます。シカゴ大学の教授で、スティグリッツの指導者でした。経歴からすれば、間違いなく優れた経済学者です。残念ながら論文を読んだことはありませんし、読んでもわからないでしょう。
宇沢は『経済学は誰のためにあるのか』という対談集に登場しています。内橋克人を相手にした、1995年に行われた30頁強の対談です。宇沢の語っている部分がおよそ20頁分あります。会話なので苦労なく読めますし、宇沢の考えの一端がわかった気がしました。
宇沢はシカゴ大学のフランク・ナイトを大切にしています。[シカゴ学派の一番の指導者]であり、[人間の尊厳を守り、自由を守ることを基本にして、経済的、社会的、政治的なシステムを考えていこうという]リベラリズムの思想を持っていました(p.7)。
2 フリードマン批判
宇沢も、フランク・ナイトと同様のリベラリズムの思想を持っているようです。この点、[フリードマンやスティグラーの考え方は、人間の尊厳を否定して自分たちだけがもうける自由を主張するというもの](p.8)であると、批判しています。
ナイトが[フリードマンとスティグラーを破門した]とも語っていました(p.7)。ニューディール政策とは、[社会倫理に反するような行動のレギュレーション]とTVAなどの[社会の安定化装置を作ろうということ](p.13)だと言い、フリードマンを批判します。
▼フリードマン派は、ディレギュレーションとともに、このTVAなどのプロジェクトを民間に払い下げることを目指していた。ニューディール政策の二本の柱に対する、規制緩和と民活です。 p.13
3 ケインズとフリードマンの対立
TVAは、今世紀に入って採算が悪化して、いまや社会の安定化装置の役割を果たすことはできません。また[フリードマンが1950年代の中ごろからやったのは、すべてケインズ経済学の否定です](p.23)というのですが、これなど、言いすぎになるでしょう。
宇沢は[フリードマンはケインズに個人的にも憎悪感を持っていたようですが、ありとあらゆる面からケインズに反対した](p.23)と語ります。宇沢にはフリードマンに対する個人的な憎悪感があったのだろうかと思うほど、ほとんどフリードマンの全面否定です。
[ベトナム戦争で、アメリカの倫理は混乱し、完全に壊された]ため、[フリードマン流の考え方が大きな流れになっていった](p.23)とのこと。アメリカの分断と言われるのは、最近のことではないと感じます。思想的な対立が続いているということでしょう。
金森久雄は『大経済学者に学べ』で、「ケインズとフリードマンはかならずしも矛盾しない」という項目を立てて論じています(p.59)。この本の出版は1997年でした。いまになってふりかえってみると、金森の的確なものの見方が、いっそう光って見えます。