■専門とは違う分野をどう学んだらよいのか:日本史の場合

     

1 受験勉強とは違うアプローチ

生真面目な知り合いから、勉強したほうがいいのだけどね、どうも専門でない分野の勉強は気が進まない…と言われました。気弱な発言をするものです。この人は学校で教科書や参考書できちんと勉強して、予備校にも通った、かつての秀才だったのでしょう。

歴史の勉強をした方がいいと思っているとのこと。自分の好きな本を読めばいいのじゃないの、と答えたのですが、相手の反応にため息が出ました。まだ受験勉強をしていた時の気持ちが抜けないようです。ノートを作って、本の最初から覚えていく感じの話でした。

ビジネス人は歴史から学ばなくてはならないという気持ちもあるようです。そんなのバカバカしいでしょうと言ったのですが、本当に戸惑っているので、少し話をしました。もしかしたら、こういう人は他にもいるかもしれません。このときの話を書いておきます。

       

2 歴史を記述する手法

歴史から学ぶべきだというのは、その通りですが、歴史をどう組み立てていくのか、そういうことに関心がありませんか。事実に基づくというのは原則ですが、古代のことなど、わからないことばかりです。その時、どうやって考えをまとめていくのでしょうか。

日本がどうやって国を作っていったのか、資料が極めて限られています。それをどう情報処理していったらよいのか、簡単な話ではありません。歴史的な事実は当然大切です。しかし事実と言われているものから、ずいぶん違った歴史が記述されることになります。

こういう視点で、ある時代を見ていけば、自分の好きな歴史家が誰なのかも見えて来るかもしれません。私など、日本の古代を歴史家がどう描くのか、その手法に関心があります。日本史の専門家よりも、内藤湖南、宮﨑市定のほうが好ましく思います…と。

     

3 内藤湖南と宮崎市定

具体的な本をあげておきました。まず内藤湖南『日本文化史研究』。講演録なので、読みやすい本です。宮﨑市定の場合、全集21巻「日本古代」が中心ですが、文庫で読めます。『謎の七支刀』『古代大和朝廷』。『アジア史概説』の日本史の部分もよいです。

日本が独立したのは、古代チャイナの影響を受けて日本が独自の文化を形成していき、その後に独立意識が高まっていったからだと考えられます。しかし、それだけでは強大な文化圏からの独立は不可能でした。チャイナからの圧力の強弱が関わっています。

チャイナ国内の事情で、外への圧迫が薄れたとき、周辺国は独立を果たしたと考えるのが自然でしょう。内藤湖南は、日本の独立は高句麗の独立と同じころだろうと語っています。日本のほうが独立を保っていたために、独自性の強い文化が成立したでしょう。

宮﨑市定は、紀元1世紀の終わり頃、日本国が成立したろうと記します。これは「中国記録の吟味」をした上での考えです。ビジネスにどれだけ役立つかわかりませんが、思考の訓練にはなるでしょう。私の考えにすぎないからね…と、こんな話をしたのでした。

     

▼内藤湖南

▼宮崎市定