■野中郁次郎がカリフォルニア大学バークレー校で学んだ方法論
1 「いかに理論を作るか」を叩きこむ講義
野中郁次郎の「『失敗の本質』を語る」という本は、なかなか面白い本でした。野中の理論がどうであるかよりも、アメリカの大学の教育のすばらしさについて、注目していただきたいと思います。野中はカリフォルニア大学のバークレー校で学びました。
▼指導教官は、社会学の大家、タルコット・パーソンズ(1902~79年)の弟子だったニール・スメルサー、社会学の方法論の権威、アーサー・スティンチコームです。そこで「いかに理論を作るか」を叩きこまれたのです。 p.69
どんなことをしたのでしょうか。[授業では、社会学の優れた教材を10点選び、理論を提唱する論者が生きている場合には本人を呼んできて、どのように理論を作ったのかを聞き取るときもありました](p.69)とのこと。王道を行く講義だったようです。
2 理論構築のケーススタディ
講義では[いわば、社会学のすぐれた作品を生み出した、理論構築のケーススタディ]を行いました。最初の一冊は[社会学者、マックス・ウェーバー(1864~1920年)の『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(1904~05年)]です(p.69)。
ウェーバーは[既存の価値観からの自由]である「価値自由」を唱え、その[実行するための手段が、「理念型」]だと考えました。[観察→仮説→実験→推理→検証という実証の手法を社会科学に適用するためのルールを打ち立てた]のでした(pp..71-72)。
これをさらに発展させた[バークレーの社会学の講座で学んだ知の技法は、私の研究手法のベースとなっています。理論を作るというのは、こんなに面白いのかと思ったのです]。[現在も研究の基盤としている社会科学(社会学)の方法論](p.74)といえます。
3 パースの方法が基礎
野中は、自分の社会科学の方法論を「実践的推論」と書いています。これはチャールズ・サンダース・パースの方法と言ってよいでしょう。「仮説推論」「遡行推論」「演繹、機能」の[3段階をスパイラルにたどることで真理を探究できる]という考えです(p.75)。
▼この方法論は、知識を創造したい全ての個人や組織に通用するし、私が後に生み出す「知識創造理論」のプロセスにも当てはまります。現在のような危機の局面でこそ、この方法論を有効に活用すべきではないでしょうか。 p.76
幸いなことにパースの論文は『世界の名著 59』にあります。興味のある方は読んでみる価値はあるでしょう。10年前にもブログで【ビジネスの基本となったパースの「信念の確立法」】を書きました。手間はかかりますが、じっくり読むのにはいい本です。
野中の留学した時代と現代では、教育内容が違っているかもしれません。いずれにしても、われわれ個人が類似の勉強をすることは可能ですし、それは有効なはずです。野中が、手間のかかる正統派の勉強をしていたのが、今回わかって興味深く思いました。