■日本語文法を再構築するためのヒント:「構文文法」のアプローチ
1 1990年頃に誕生した構文文法
『ベーシック英語構文文法』という魅力的な書名にひかれて、少しだけ読んでみました。概略だけでも、ある程度わかればと思ってのことです。著者の大谷直輝は「まえがき」で[構文文法は認知言語学を土壌として1990年頃に誕生した学問]と記しています。
▼事物や事態をカテゴリーに分類しないと、世界は区切りのないぐじゃぐじゃした無秩序な連続体となりますが、似た者同士をまとめてカテゴリーに分類することで、私たちは世界を秩序だったものとして認識することが出来ます。 p.107
しかし同時に、色のカテゴリーを考えてみても、[境界は言語によってかなりばらつきが見られます]。日本語の場合、[青の範囲が広い](p.108)のです。言語学でも、古典的なカテゴリー概念と、プロトタイプ・カテゴリーの概念で対照的な捉え方になります。
2 形式的な特徴と主観的な意味
品詞を定義する場合、古典的なアプローチでは、[形式的な特徴から定義がなされます](p.154)。しかし、例えば名詞を定義しても、その例外事例が現れるのです。その一方で、[主観的な意味の存在を軽視していること]は問題というべきでしょう(p.155)。
[人間は事態をありのまま認識するのではなく、主観的に認識します]から、[事態のありようだけでなく、事態の認識方法も意味に加えることで、意味的な特徴づけが可能に]なるでしょう(p.155)。これは品詞に限らず、主語などの文法関係でも同様です(p.159)。
こうした発想があれば、[例文を見せられて、主語は何ですかと言われて]、文中の[「は」は主語標識で、「が」は主語の標識だなどともったいぶっていっても、言い換えているだけで、正直、何の説明にもなっていない](p.147)ことに気づきます。
3 「順次的走査」と「総括的走査」
大谷は認知文法論での事態の認識について、「順次的走査」と「総括的走査」の二つの捉え方があると指摘しています。たとえば言葉の品詞が異なる場合、意味に差異が生じるはずです。こうしたときに、二つの走査(Scanning)によって認識されることになります。
▼認知文法論ではある事態を認識する際に、時系列にそって展開していく事態の過程に焦点を当てることで動詞が、事態全体をまとまりとして捉えることで名詞が使用されるようになると考えます。 p.156
文を読む時に、前から順に読んでいくことは原則です。同時に、それらをあるまとまり全体で確認していかないと、正確な認識ができません。日本語の場合、主体がしばしば記述されず、文末で意味が確定されますから、二つの走査が不可欠になることでしょう。
どこまで構文文法の考え、アプローチが使えるのか、まだわかりません。以上にあげた点は、日本語の文法を再構築する際のヒントになるだろうと思います。教養人やリーダーが冷ややかに扱う、通説的な日本語文法ではダメなのです。再構築が必要になっています。