■カードシステムを有効に使うために:アナログ的な利用に価値あり

     

1 カードシステムのデジタル化

カードシステムをデジタル化しようとする人がかなりいます。私の周辺にもいました。バカバカしいことだとは言い切れません。かなり優秀な人が、相当考えた上で、PC上にカードシステムの体系をつくりあげていました。彼はそれに満足していた気配でした。

その後どうなったのかは知りません。パソコンの技術者でしたが、生まれ故郷に帰っていきました。梅棹忠夫の『知的生産の技術』など読む人ではありませんから、梅棹のカードシステムをデジタル化しよう…といった雑誌の記事からヒントを得たのでしょう。

ペーパーレスであることに意味があると言って、PC上で操作してくれました。任意のカードを何枚か読みだして、それらを画面に並べることなどお手のものです。キーワード検索でカードを選ぶことも、さらっとできました。便利そうだと思った記憶があります。

     

2 記憶にあるものが連想を働かせる

写真がデジタル化されて、PCなどのデジタル機器に保存できるようになってから、写真をプリントアウトすることがほとんどなくなりました。その結果、写真を撮影したときのことなど、印象が残らなくなっています。撮影枚数は増えても、記憶は薄れた感じです。

たぶんカードも同じでしょう。手で書く方が記憶に残ります。それを何度か見れば、さらに記憶に残って、その記憶が連想を働かせることになるでしょう。頭の中にある程度の痕跡があるからこそ、パッと見て、他のものと結びつきやすくなるということです。

思いつきは消えてなくなりますから、カードに記録するのは良いことでしょう。なぜカードかと言えば、アイデアや思いつきはシンプルだから、小さな紙に十分書けるでしょうし、その方が雑音がなくて、機能的のものになるからです。使える道具だと言えます。

      

3 カードにはアイデアを書くという原則

カードには思いつき、アイデアを書くということです。これが原則になります。この点、誤解もあるようです。谷沢永一は『知られざる名文・名句』で、渡部昇一の言葉を引いて、それをなぜか、『知的生産の技術』と結びつけて、カードを攻撃しています。

▼いちいちカードをとる場合には、そのたびごとに立ちどまって呼吸を整え、今まで読み進んできた内容の概略を、カードへ記載するのに適するよう圧縮しなければならない。読んだことのすべてを記録することが出来ないのはカードシステムの宿命である。 p.132

渡部昇一は、たんに[読んだことで興味を引いたことは書きとめておくのがよいと言われるが、それは限られた目的のほかは、かえって害がある場合が多い]と言うだけでした。これはその通りです。梅棹も、この種のことは馬鹿げているという前提でした。

読書中に思いついたことを欄外にメモしておいて、読了後、記録する価値のあるものだけをカード化するのです。本は触媒でしかありません。カードにはアイデアを書き、これを見返すのです。カードには質が求められます。使い方はきわめてアナログ的です。