■文法と語法 研究に必要なのはどちらか?:小西甚一の考え
1 「言いかた」と「言葉の法則」
『古文研究法』という小西甚一の書いた参考書は古典的なものと評価されています。新版も出版され、文庫化もされました。初版が出たのが1955年、改訂版が出たのが1965年です。内容は古くなっているのかもしれません。しかし名著だと言われています。
研究者でも、この本が完全に理解できるかどうかとも言われたこともありました。しかし同時に高校生でも読めるように配慮がなされています。読めるところだけでも、この本は十分に役立つはずです。文法と語法についての部分も、大切な指摘がありました。
[語法というのは、広い意味で「言いかた」のことである][文法は、言葉の法則である。こう言わなくてはいけないというルールである](洛陽社版 p.120)とあります。小西の言うのは、規範文法であって、かつての文法の定義を使っているようです。
2 古文の研究に必要なのは語法
小西は「君はあんまり勉強しねえから、入学試験が心配ですよ」という例文をあげます。文法的には間違ってはいなくても、日本語としてはヘンでしょう。だから[文法的には正しくても、実際にそういう「言いかた」が無ければ、だめなのである](p.121)。
逆に言えば文法的におかしくても、[実際に存在する「言いかた」なら、しかたがない]のです。[語法と文法とは、必ずしも、一致するわけではない。そうして、古文の研究に必要なのは、語法なのである](p.121)。こうした考えから、小西は言います。
▼どんな「言いかた」でも、とにかくいちおうは文法にもとづいて言われるのであり、まるきり文法を無視したのでは、言語にも文章にもならないはずである。だから、語法の研究は、一応文法を基礎にしてやってゆくのが、便利である。 p.121 第一部「語法と解釈」
3 文法の限界と利用領域
文法には限界があり、より重視すべきなのは語法であるとの前提に立って、小西は文法を上手に使うようにと主張しました。文法に対する万能感が行き過ぎているのかもしれません。語法との不一致を解消することが、新たな文法を構築する目的ではないのです。
さらに文法を利用するにしても、品詞分解は、[古文研究の中の時代遅れな部分にすぎない。品詞分解の重要性を力説するのは結構だけれど、そればかり熱中していると、もっと重要な「解釈と結びついた文法」を勉強する時間が無くなる](p.121)と指摘します。
(1)文法とは、こう言わなくてはいけないというルール、言葉の法則である。
(2)実際の言いかたである語法と文法が一致しない場合があり、語法が優先される。
(3)語法は文法を基礎にしてみていくべきである。
(4)文法のなかで重要なのは「解釈と結びついた文法」の部分である。
今後も、小西の指摘を基本にすえるべきでしょう。文法は規範文法がよく、さらに解釈をするときに使える文法が必要です。文法は万能なものではなく、語法を重視する必要があります。正確な解釈がなされるかどうかを、文法の評価基準とすべきでしょう。