■基本原則を作るときのお手本:ヘルムート・マウハー『マネジメント・バイブル』
1 ネスレを世界的企業にしたヘルムート・マウハー
ネスレを世界的企業にしたヘルムート・マウハーは[経営書はいくらでもあるのに長たらしい研究書の類をもう一冊追加しても意味がない](p.3)と考え、[その代わり、経営者のためのガイドブックを書くこと]にしました(p.4)。どんな本でしょうか。
▼簡潔で、ポケットに入れて持ち歩け、しかも経営の核心部分が抽出された本。そして二種類の使い方が出来る本。一つには、知りたい分野の情報を素早く見つけるため(辞書のように)、もう一つには、比較短時間で一分野全部を読破するため。 p.4
マウハーは[間違いなく二〇世紀の最も偉大な経営学者であるピーター・ドラッカー](p.16)、[わたしが最も尊敬するピーター・ドラッカー](p.77)という人です。2007年に原著が出版されました。アメリカ流のマネジメントと一味違った本といえます。
2 20頁にエッセンスが詰まっている本
『マネジメント・バイブル』は200頁を超える本ですが、全部を読まなくても問題ありません。マウハーの言う「ポケットに入れて持ち歩け」る「経営の核心部分が抽出された」ものが「付録」として付けられています。これが8ページのエッセンスです。
本文は12章からなります。このうち、ぜひ読むべきところは、第1章「経営者とマネジャー 異なるリーダーシップの資質」と、第6章「企業文化と価値創造経営(VBM)」です。先の付録と合わせても20頁程度の分量ですから、読むのにそれほど負担がありません。
実務の経験がある人や、小さな部門のリーダーの場合、厚い経営学の本を読むよりも、エッセンスを読んで考えるほうが成果に結びつくことでしょう。この種のものは、一度読んだくらいでは、なかなか身に染みてきません。その点でも、この本はお勧めです。
3 基本原則を作るときのお手本
付録を見てみましょう。そこでは「システムよりも人と製品を大切にする」ことが掲げられています。そして成し遂げるべきことは、「市場ニーズに合った製品を作ること」「経営陣、社員、顧客を大切にすること」「売り上げを確保すること」です。
「当たり前で明白な事柄」を「基本に忠実」に実施して、「長期的な事業の発展に力を傾ける」とあります。「合理化努力」は必要ですが「品質や長期的なイノベーションを犠牲」にしないように、さらに「リノベーション(改善)」も大切にしてということです。
しばしば忘れがちなことですが、「適切な人材を採用することは、継続的な社員教育よりも重要である」とあります。これはドラッカーの考えとも合致するものです。当該分野に強みを持った人材を活かす機会を与える必要があります。人選が大切なのです。
基本原則を作るとき、[ありふれたフレーズを使いすぎないように][独自性をはっきりと表す]とともに[すべての地域や事業領域に当てはまる][拘束力を備え]たものにするようにとマウハーは注記しています(p.78)。付録のエッセンスは、そのお手本です。