■自分流の読み込み:『定跡からビジョンへ』を参考に

       

1 ミッションの定義

マネジメントの用語が様々な意味で使われていることは、何冊かの本を読んでみるとお気づきになるでしょう。自分なりの概念を持っていないと、そのズレ方がなかなか見えてこないはずです。どうしても自分流の把握が必要になります。

たとえばミッションという用語について、今北純一は『定跡からビジョンへ』で、「自らが挑戦すべき目標」だと語っていました。この本は羽生善治との対談を2004年に本にしたものです。簡潔な表現で、何度となく説明していますので、誤解しようがありません。

▼抽象的な経営理念はミッションとは言えません。ミッションは、その企業ならではの独自性に基づき、底から具体的なロードマップ(道筋・ビジョン)が導き出されてくるものでなくてはなりません。 p.22 『定跡からビジョンへ』

      

2 今北流のミッションの概念は目標に該当

今北は言います。[ミッションが「夢、やりたいこと」(目標)だとすると、そのミッションに到達するまでのロードマップがビジョンです](p.23)。具体例はどうでしょうか。ホンダのかつてのミッションは「オートバイで世界一」だったと今北は語るのです。

今北流のミッションは「目標」なのです。目的・目標・手段の3階層で考える思考とは別であることがわかります。「目的」がないのです。多くの場合、哲学では「目的」と「手段」で考え、科学では「目標」と「手段」で考える傾向があります。

欧米で活躍する日本人が「ミッション」とか「目的」というとき、しばしば「目標」に近い概念になる傾向があるのは興味深いことです。ゴールを想定して、そのゴールを定性的に表現するか、定量的に表現するかで、目的と目標の違いが出てきます。

      

3 自分なりの読み込みが必要

目的と目標の違いは、哲学的であるのか科学的なのかの違いともいえそうです。欧米で活躍していると、もっと明確に表現するようにという思いが強くなるのかもしれません。今北の場合、ミッションの上にまた別の概念を持ってきています。

▼ホンダが四輪車への進出を決断したのは、投資経済効果やリスク分析、「儲かるか儲からないか」という計算に基づいたものではないと思います。そこには、おそらく本田宗一郎の「どうしても四輪車を作りたい」という熱い思いがあったのです。そのパッションが社員全員を引っ張っていったのだと思います。 p.25

今北は、パッションを上位概念に位置づけているわけではありませんが、パッションを上位に置けば、マネジメントを3階層で考えるのと同じになります。今北の考えを自分なりに取り入れるために、思考を整理することが必要になるということです。

今北は[ホンダは「四輪車業界への進出」を次のミッションとして掲げました](p.24)と言っています。目標なら定量化する必要があるでしょう。こうした自分なりの読み込みが必要となりますが、『定跡からビジョンへ』は読む価値のある本です。