■村上春樹の読みの方法:「何冊かに一冊はエヴァ・グリーンの小説を」

     

1 村上春樹が説く本の読み方

村上春樹は人気作家ですから、読者の方も多いでしょう。私は短編小説が好きです。ただし2つの作品だけですから、いい読者とは言えません。『中国行きのスロウ・ボート』という短編集にある「午後の最後の芝生」と「土の中の彼女の小さな犬」が好きでした。

両作品とも、1982年に書かれています。その後、1987年に『ノルウェイの森』が出て、それも読みました。それ以降、もういいかなあとなっています。2つの短編を読んで、間違いなく実力のある作家だと思いました。あのとき村上は33歳だったようです。

1983年に『ちょっと手の内拝見』という本に村上春樹が「細部を読む」という文章を書いています。私は1987年出版の「知的生き方文庫」で読みました。10頁足らずの文章ですが、大切にしています。最近、この文庫が本の山から見つかりました。

    

2 優れた小説の条件

[優れた小説というのはだいたいが読む技術をあまり必要としない小説のこと]だと村上は記します。しかし[すらすら読み通せる本が全部優れた小説]のはずはないので、[多面的な読み方のできる小説がすなわち優れた小説である]と言えるでしょう。

▼もう一度読み返してみたいと思う小説は意外に少ないものである。読みかしてみて、最初に読んだときに劣らず面白かったという小説の数となるとそれよりもっと少ない。そのようなふるいにかけられて残った小説が真に優れた小説だと僕は思うし、多少の試行錯誤こそあれ、そういう風に考えてだいたい大過なく暮らしている。 pp..22-23

シェークスピアの文学の優れた点は、多面的な読み方ができる点にあると、村上は言います。シェークスピアのように歴史的な名著だけでなくて、もっと新しい作品でも、こういう読み方のできる作品が優れているはずです。村上は「多面的」を解説していきます。

     

3 自分のエヴァ・グリーンの本を見つけて読み返すこと

村上は何度も読んでいる小説として、レイモンド・チャンドラーの『長いおわかれ』をあげていました。何度も読む理由を(1)ストーリーが面白い、(2)文章に魅力がある、(3)小説に志がある…をあげた上で、これ以外に「細部を読む」ことを強調します。

細部とは[(1)セリフを読みこむ(2)地理を読みこむ(3)歴史・風俗を読み込む(4)人物(とくに脇役)を読みこむ(5)文章技法を読みこむ(6) 生き方、ライフ・スタイルを読みこむ…]など。そのたびに[違った読み方ができ、そのたびに新しい発見がある]のです。

▼本をいっぱい読むというのもひとつの読書法だし、一冊の本をいろんな角度から読むというのもひとつの読書法である。そのふたつが一緒になることで、読書というものはCOMPLETEなものになるのだと僕は思う。 p.30

[新刊を読むのにどれだけ追われていても、何冊かに一冊は必ずそういうエヴァ・グリー
ンの小説を読みかえすことにしている]と村上は言います。小説に限りません。自分のエヴァ・グリーンの本を見つけて読み返すことは、読み方の王道を行くものだと思います。

    

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