■リーダーへの期待とその養成:シュンペーターの洞察との関係

      

1 リーダーへの期待の切実さ

メーカーやサービス業の人たちと話していると、リーダー個人への期待が切実になってきているのがわかります。異例の人事がもはや異例でなくなってきました。教え子がまた抜擢人事の対象になっています。その際の自由裁量の大きさにも驚きます。

ある領域の業務全体を任せるというのです。思い出すことがあります。『クオリティ国家という戦略』で、ブランド時計「タグ・ホイヤー」のジャック・ホイヤーは、セイコーの再生をどうしたらよいかと大前研一に問われて、「私を雇えばよい」と答えたのです。

▼ブランドを維持するためには、1人のプロデューサーがいればよい。ところが、それをセイコーは組織でやろうとする。セイコーに時計を作る職人は大勢いるが、ブランド・マネージメントの職人はいない  p.58 『クオリティ国家という戦略』

     

2 「好きにやっていいなら、ずっとよくなる」

小室直樹は『経済学をめぐる巨匠たち』で、[一人の天才的英雄が、その企業家精神、先見性や独創性、決断力や実行力によって牽引し]た革新的な企業が官僚化するとのシュンペーターの洞察を紹介しています(p.169)。日本企業にも、その傾向があるのでしょう。

シュンペーターのイノベーション理論は『経済発展の理論』第二章にある通りです。その後の展開を『資本主義・社会主義・民主主義』に記しています。日本では「一人の天才的英雄」でなく、部門のリーダーへの期待ですが、個人に期待する点では同じです。

改善への期待だけでなく、もっと大きな変化への期待があります。「好きにやっていいなら、もっとずっとよくなるのに」という声を、今まで聞いてきたはずです。一部の組織、どちらかというと小さな組織では、小さな改善では間に合わなくなってきています。

     

3 リーダーの養成競争

従来なら、アウトソーシングする会社の方が、アウトソーシング先よりも収益が上がるはずでした。ところが業務の仕組みの違いから、収益性が逆転している現象もみられます。この点、昨年後半から人手不足が顕著ですから、優秀な人材に期待するしかありません。

面白い時代がやってきたと思います。サービス業の場合、高品質のサービスを提供するのは若手が中心です。この人たちへの待遇の悪さはぞっとするほどでした。ここへきて中核メンバーがごっそりがいなくなりそうな組織も、いくつか出てきています。

メーカーでも国内に付加価値の高いものを集中させるために、海外への工場建設を進めている会社がいくつもありました。何でこんな時期に中国に工場を建設するのだという、誤解に基づく批判もあったそうです。国内製造の高度化が急速に進んでいます。

天才的なオーナーの養成は簡単にはできそうにありませんが、飛びぬけたリーダーなら、じっくりやれば養成可能なはずです。大勢の人を雇用できない、少数精鋭となるしかない状況下で、リーダーの養成競争が起こるのではないかと、期待しながら見守っています。

       

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