■シュンペーター入門の入門:入門書の傑作『大経済学者に学べ』と『経済学をめぐる巨匠たち』

      

1 入門書の傑作:金森久雄『大経済学者に学べ』

ずいぶん前のことですが、シュンペーターについて語る必要が出てきたため、集中的に読んだことがあります。読むのは大変ですが、おそるべき人でした。イノベーション理論の基礎が、『経済発展の理論』第二章「経済発展の根本現象」に記されています。

シュンペーターは、この本のこの章だけ読めばよいのだと、[シュンペーター研究の第一人者で一橋大学名誉教授の塩野谷祐一先生がおっしゃった](p.82)と藤原敬之は『日本人はなぜ株で損するのか?』に注記しています。これだけでも読むのは楽ではありません。

特別興味がある人以外、金森久雄『大経済学者に学べ』の「シュムペーター」の項目をひとまず読むべきです。あっけないほどシンプルにそのエッセンスが記されています。金森のこの本は、入門書の傑作というべき本です。いずれ文庫で出版すべき本でしょう。

      

2 イノベーション理論のエッセンス

金森は記します。[同一の単純な再生産を続けて、それなりにバランスがとれている経済]を想定するモデルは、[土地、労働、資本が生産要素としてあって、それがだんだん拡大していって、経済が発展する]という[植物的な成長を考え]ていました(p.71)。

しかし経済発展の原理について、[シュムペーターは「それは企業家の革新によって生産関数が変化するためだ」](p.71)とします。企業家とは[事業のやり方に新しいものを取り入れた人]であり、革新を行えば誰でも企業家になれるということです(p.73)。

シュンペーターは、経済が自然に発展することを否定しました。新しい製品やサービスを提供する企業家がいて、それらを社会の人々が受け入れることによって、経済が発展すると考えたのでした。これがイノベーション理論のエッセンスにあたります。

     

3 もう一つの傑作:小室直樹『経済学をめぐる巨匠たち』

金森はこの本で、日本経済について楽観的な見通しを示しました。もう一つの入門書の傑作である『経済学をめぐる巨匠たち』での小室直樹の見解は違います。[シュンペーターは「革新が日常業務化」してゆく]ことを発見したという点を重視したのです(p.168)。

[一人の天才的英雄が、その企業家精神、先見性や独創性、決断力や実行力によって牽引してきた魅力あふれる革新的企業も、大きくなるとすっかり官僚化して了う](p.169)との洞察からは、[シュンペーターの予言通りに失速する日本経済](p.184)が見えます。

金森の『大経済学者に学べ』は1997年出版、小室の『経済学をめぐる巨匠たち』の出版は2004年でした。日本経済の停滞が明らかになってきた時期が、なんとなく感じられます。この2冊の本を対比しながら読んでみるのは、とても興味深いことです。

じつのところ、苦労して読んだ『経済発展の理論』第二章「経済発展の根本現象」も、この2冊を読んでから再読すると、かつてほど苦労しなくなります。2冊の入門書は経済学説の理解だけでなく、著者の見解も楽しめるものです。おすすめしたいと思います。

     

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