■必要な指標を得る方法:芳沢光雄『数学的思考法』でのアプローチ

    

1 説得力のある客観的な指標

先週、講義を行ったときに発展学習のつもりで、ちょっとした問題をご紹介しました。岸田内閣の経済政策について論じてくださいと言われたら、どうしましょうかというものです。ビジネス人が論じるのは、大きすぎる問題のようにも思えます。

こういうとき、ビジネス人なら定量的な指標を出したいものです。何らかの客観的な指標を示すことができたら、説得力があるでしょう。どうやって必要な指標を探したらよいでしょうか。この点について、芳沢光雄が『数学的思考法』でヒントを出しています。

芳沢は数学者です。[数学に関しても、目標とするものへの直接の道筋は立てられなくても、目標とするものの近くで、「これさえわかれば目標とするものへ達することができる」という目印のようなものがある場合がある](p.94)ということでした。

    

2 日本の犬の総数を推計した方法

芳沢が『数学的思考法』で紹介していたのは、厚生労働省の狂犬病の予防接種をした犬の割合です。予防接種をした犬の総数はわかるのですが、[問題は日本に現在いる犬の総数である](p.95)。飼い犬の数に関する正確な統計はないようです。

日本にいる犬の総数を推計するしかありません。どうやって推計したのでしょうか。[ドッグフードの消費量]からの推計だったそうです。[それががわかれば、犬の総数はおおよそ概算できる](p.95)でしょう。約1000万匹の犬がいるというのが推計の結果です。

犬の総数を直接的に数えることができなくても、総数が反映する数字を見つけることができれば合理的な推計は可能になります。[「これさえわかれば目標とするものへ達することができる」という目印]を見つけるアプローチはビジネス人にも使える手法です。

     

3 ドル建て日経平均

岸田内閣の経済政策の評価をする場合、日本の犬の総数を推計したようにうまくいくでしょうか。たぶんそこまで簡単にはいかないでしょう。しかしここ10年近く、かなり使える方法として、私たちの間では当たり前のように使ってきた指標がありました。

日経平均株価を評価基準にするのです。ただしドル建てのチャートを使います。日本株の売買代金の7割が外国人によるものですから、ドルで指標を見ているはずです。当然、政府への思い入れなどありません。日本が強くなるなら買い、弱くなるなら売りです。

菅内閣のときドル建てで日経平均は史上最高値を更新しました。コロナがひどくなって一旦下げた後に反発したものの、岸田内閣の成立以降、下げトレンドが続いています。アメリカ株式などの影響とは言えないのです。米株に3か月強、先立って下げています。

外国人投資家は、岸田政権の経済政策はアベノミクスの否定であり、これが日本経済を弱くすると判断したようです。今後、政策転換があるかもしれませんが、現在までの岸田内閣の経済政策を論じるときの補助線にはなるでしょう。こんなお話をしたのでした。

   

★ドル建ての日経平均のチャートは、例えばこちら

★関連記事は、日経新聞のこちらなど

      

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