■業務改革を成功させるコモン・センス:ヒュームの「理性万能主義」批判
1 切れ味鋭い抜本的な改革案
改革を行うときに、現状を重視することは原則と言ってよいでしょう。これが原則になることは実際の案を出した人ならわかるはずです。優秀な人が、ときとしてすごい改革案を提案することがあるのに対して、守旧派と言われがちな人が出てきます。
守旧派というのは、ある種の流行になりました。ところが切れ者と言われる人ほど、こけることがあるのです。実績を積んできた人は、どちらかというとどんくさい改革を行います。切れ者の案を、にこやかに否定する姿は、反対側から見ると守旧派に映るでしょう。
しかしこのあたり、もはや勝負がついています。現状からスタートしない、切れ味鋭い抜本的な改革案はしばしば挫折してきました。話題になった改革が、その後どうなったのか、知っている人もいるでしょう。なんでこうなるのか、不思議かもしれません。
2 ヒュームの理性万能主義批判
現状からスタートして、何だか冴えないところから小さく始める人は、経験からわかっているのです。こちらのアプローチの方が成果があります。人間の集団が新たな行動をするときに、すべてを予測することは難しいのです。これは歴史を見ればわかります。
イギリスのデービッド・ヒュームについて、渡部昇一が『歴史からいま何を学ぶか』で語っています。ヒュームはフランスで革命が起こることを予測しました。そして「理性万能主義者」が理屈を考えて革命を起こすだろうから失敗すると主張したのだそうです。
ヒュームは、理性が万能ではない以上、正確なプログラムは書けないはずだと考えました。[知性にすべてを委ねることはできないとヒュームは考えたらしいのです](p.19)。[イギリスの歴史ぐらい理屈に合わない歴史はありません]と渡部は語っています。
3 大筋を決めて逐次修正
理性に頼って、改革案を描いても、その通りに行かないとしたら、どうするのが改革につながるのでしょうか。イギリスの場合、[一つ一つどんなに小さいことでもいいから具体的に今持っている個人の自由が拡がることをやろうとした](p.23)ということです。
これは業務改革の基本ともなります。まず具体的に、これはよいはずだと思えるところから、小さく変えていくのです。この方が成果が出ます。実際の歴史を見ても、イギリスのほうが先に議会制度を導入することになりました。歴史の教訓と言ってよいでしょう。
渡部は[大筋を決めて、逐次修正してゆく。そして具体的にいいものを守ってゆく―これが一番いいやり方であるというのが]ヒュームの考えだったと言います。常識「コモン・センス(common sense)」を働かせることが大切だということなのです。
センスというのは[知識という意味は全然含まれておりません。これは判断力という意味です](p.28)。コモン・センスとは[“それがなければ、馬鹿であるような”とイギリスの辞書に書いてある]そうです。つまり確実な一歩が大切だということになります。