■伝統文法・規範文法と新言語学・記述文法:日本語文法を構築する前提

1 二系統の文法

昨日書いた「日本語を近代化させた心情と日本語文法の関係」について、よくわからなかったというコメントをいただきました。文法についての一般的な話をしたつもりでしたが、たしかにわかりづらかったかもしれません。補足しておきます。

文法には大きく二系統があると言ってよさそうです。渡部昇一は『秘術としての文法』で「新言語学」と「伝統文法」という言い方をしています。[いわゆる伝統文法と新言語学には大きな違いがあることを身に染みて実感した](p.16)と記していました。

いまでは規範文法と記述文法という言い方が一般的でしょう。新言語学が記述文法と類似の概念になります。[新言語学は、構造言語学であれ、生成文法であれ、確実な意味がすでに研究者にわかっている文章のみを分析研究する](p.16)という点が特徴です。

      

2 伝統文法・規範文法の特徴

従来からの文法は、文章の意味がよく取れないときに使う文法でした。あるいは書くときに使う文法です。この文法が伝統文法、規範文法になります。渡部は[比喩をもって言えば、新言語学は化学であり伝統文法は薬学である](p.17)と記しました。

従来の文法は[目の前にある文書を正しく読めるようになろうという組織的な努力](p.20)の賜物だったのです。いま私たちは、こちらの概念の文法が必要だろうと思います。ただし日本語の場合、目の前にある文書の文章・文体が確立したのが最近です。

20世紀後半になって、すべての学術的な成果を日本語で記述し、議論できるようになりました。これで日本語の近代化の目標を達成したことになります。日本語の記述法を成熟させていくときに基本的な価値があったのです。それを無視することはできません。

    

3 規範文法の必要性

日本語に欧米流の論理を当てはめないという考えもありましたが、ピタッと一致しないまでも大枠で同じ論理が当てはまらないと困るのです。共通の学問をするときに、論理体系が大きく違っていたら議論になりません。簡潔で的確な記述ができなくては困るのです。

日本語を論理的に、簡潔・的確に記述しようとする意思をもって形成してきた以上、解釈するルールを構築する際にも、この価値が尊重されるなくてはならないでしょう。渡部の言う「正しく読めるようになろうという組織的な努力」のベクトルを定めるべきです。

論理的で、簡潔・的確な文章がよいという価値観がありました。この価値にそった文章が正しく記述でき、正しく読めるようなるためのルールが必要です。こうした価値観にそった文法が構築されたなら、それは規範文法・伝統文法にならざるを得ないでしょう。

日本は開国の際、不平等条約を強いられました。日本人は近代化の推進によって欧米諸国と対等関係を確保することが不可欠でした。それにふさわしい文章が必要でしょう。この規範に適う文法がまだ完成されていません。だからこそ、構築が必要となるのです。

     

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