■文を主題概念で捉えることの問題点:日本語文法の忘れ物

      

1 主題概念と主語概念

1990年以降に出た日本語文法書の場合、たいてい日本語の文構造を考えるときに、「主題」という概念を使います。英語ならば文構造を主部と述部に分けて、主部の中心となる語句を主語、述部の中心となる動詞を述語動詞としているはずです。

英語と日本語で違うのは問題ないことですが、日本語文法で使う主題という概念は、かならずしも明確なものではありません。『はじめての日本語教育[基本用語事典]』にある主題の概念と主語の概念を読むと、両者の概念は明確とは言えなくなります。

主題は[ある現象や出来事の主体、すなわちある文が何について述べているかを示すもの]であり、主語・主格は[述語が動作動詞の場合は、その動作をする人や物、述語が形容詞の場合は状態の主体、性質の持ち主のこと]という解説です。

      

2 「は/が」で区分する主題と主語

述語の主体は主語・主格であり、述部の主体が主題ということかもしれません。「象は鼻が長い」の場合、述部が「鼻が長い」だとしたら、「象」は述部「鼻が長い」の主体といえます。一方、主語となるのは、述語「長い」の主体になっている「鼻」でしょう。

ところが「象の鼻は長い」と「象の鼻が長い」の違いになると、「は」と「が」の違いで主題と主語を区分するしかなくなります。「象の鼻は」なら主題、「象の鼻が」なら主語ということであり、概念の違いではなく付着する助詞の違いで区分しているのです。

日本語を適切に使うために、こんなふやけた主題概念では困ります。本当に役立つのかどうか、実際の例文で考えてみましょう。【勉強会は新しい人たちが増えて活発にやっています】という例文を、主題概念で適切に分析できるのか、検証してみます。

     

3 主体を意識する効果

例文【勉強会は新しい人たちが増えて活発にやっています】の主題は「教室は」です。述部「新しい人たちが増えて活発にやっています」の主体になっています。「新しい人たちが・増えて」が主語(主格)+述語なのでしょう。この程度のことはわかります。

大切なポイントは、①勉強会に新しい人が増えたこと、②その結果、活動が活発になってきたこと…を簡潔で的確に表現することです。例文は「新しい人たちが増えて」(私たちは)「勉強会を活発にやっています」という内容でした。

本来の例文は【(勉強会に)新しい人たちが増えて(きました)・(私たちは)勉強会を活発にやっています】といったところだったのでしょう。「勉強会」に「は」を接続して、文頭に出す強調形式の文です。しかし主体を明確に意識しないと、明確な文になりません。

文末が「やっています」ならば、主体は人です。主体を「勉強会」にするなら「活発になってきました」でしょう。【新しい人たちが加入して、勉強会は活発になってきました】の方が簡潔・的確です。もう一度例文を読んでみてください。違和感を持つはずです。

    

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