■形容動詞をめぐる問題:ナノ体言の「ナ名詞」と「ノ名詞」

       

1 学校文法の形容動詞

形容動詞という言葉を聞いたことがあると思います。学校文法の品詞は10種類ありました。動詞、形容詞、形容動詞、名詞、副詞、連体詞、接続詞、感動詞、助動詞、助詞です。しかし日本語教育の文法では形容動詞、連体詞、感動詞、助動詞は使われません。

学校文法の形容詞はイ形容詞、形容動詞はナ形容詞と扱われています。2005年出版の新版『日本語教育事典』は1000ページを超える本ですが、項目どころか「形容動詞」という用語さえ見つかりません。1982年出版の旧版には「形容動詞」の項目がありました。

1982年版「形容動詞」の項目に西尾寅弥は[「形容動詞」についてどう考えるかは、単語とは何か、品詞とは何か、活用とは何か、など文法研究の根本にかかわる問題である](p.130:縮刷版)と記しています。新版ではすっかり抜け落ちてしまいました。

    

2 自然意識からは判定できない

北原保雄は『日本語の世界6 日本語の文法』の第九章に「形容動詞をめぐる問題」という項目をたてて、時枝誠記の見解を紹介したうえで、否定的に扱っています。時枝は形容動詞という品詞を認めていません。「体言+助動詞」だと考えました。

北原は形容動詞を否定する時枝の根拠をあげています。第一に自然意識という「語の運用に於いて認められる無自覚的な意識」から、第二に辞書が形容動詞の語幹を見出しとしていることです。感覚的におかしいし、辞書での扱いもその裏づけだということでしょう。

時枝は「美しい」と「綺麗」を対比した文構造を示します。(1)【[この花+は]+美しい】、(2)【[この花+は]+綺麗】+【だ】と考えるのです。しかし北原の言う通り、(2)は【[この花+は]+綺麗だ】が自然でしょう。自然意識は当てになりません。

      

3 付着する言葉で判定:「ナノ体言のナ名詞」

「美しい・きれい・満開」と並べると、学校文法では、美しい=形容詞、きれい=形容動詞、満開=名詞となります。しかし確かにおかしいのです。これらに付着する言葉を見るべきでしょう。「なの・は」がつくが確認してみれば、いっぺんに明らかになります。

「美しいなのは」とは言いません。「きれいなのは」「満開なのは」となります。3つの語句は2分されます。他の言葉ではどうでしょうか。「である」をつけてみると、「美しいである」とは言いません。「きれいである」「満開である」といえます。

活用形のある言葉を体言化するのに「こと」がつくのはご存知でしょう。「働くこと」とか「美しいこと」といえます。「きれいこと」「満開こと」とは言いません。「きれい」も「満開」も活用しませんから、体言だということになります。

形容動詞という活用形のある品詞など存在しません。あるいは「ナ形容詞」として形容詞扱いするのもおかしなことです。「ナノ体言」のうちの「ナ名詞」ということになります。一方「満開な」にならない「満開」は、「ナノ体言」の「ノ名詞」ということです。

     

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