■ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』の中核:予期せぬ成功と失敗の利用

     

1 「体系的に論じた」と言われる本

ドラッカーが『イノベーションと企業家精神』を書いたのは、1985年でした。イノベーションに関する著作として有名な本ではありますが、ご本人にとっても未完成というべき完成度だったはずです。しかし、「まえがき」でドラッカーはやや強気に書いています。

[本書は、イノベーションと企業家精神の全貌を体系的に論じた最初のものである。この分野における決定版ではなく最初の著作である。私は本書が嚆矢となることを望んでいる]ということでした。決定版ではなくて、別の意義があるということです。

ここにある「体系的に論じた」という点がポイントでしょう。この本を翻訳した上田惇生が名著集版の扉に添え書きをしています。[イノベーションと企業家精神が誰でも学び実行できるものであることを明らかにした世界最初の方法論である]ということです。

     

2 継承されなかった体系

ドラッカー=上田によると、『イノベーションと企業家精神』はイノベーションと企業家精神について、「全貌を体系的に論じた」本であり、「誰でも学び実行できるものであることを明らかにした世界最初の方法論」になります。本当でしょうか?

そのためのアプローチを見ておきましょう。この本は三つのパートからなります。第一部が「イノベーションの方法」、第二部が「企業家精神」、第三部が「企業家戦略」です。いまとなっては明らかなことですが、その後、こうした体系は継承されていません。

「体系的」と呼べるものではなかったのです。この本には、たくさんの美点がありますが、未完成という印象が強く残る著作でした。ことに中核になるはずの第一部の「7つの機会」というものが崩れてしまったのです。ドラッカー自身も扱いを変えています。

     

3 「予期せぬ成功と失敗を利用する」が中核

「イノベーションのための七つの機会」とは、(1)予期せぬ成功と失敗を利用する、(2)ギャップを探す、(3)ニーズを見つける、(4)産業構造の変化を知る、(5)人口構造の変化に着目する、(6)認識の変化を捉える、(7) 新しい知識を活用する…です。

この項目を見ただけで、抽象的すぎることに気づくでしょう。いまからこの本を読むとしたら、ドラッカーの力点を考慮すべきです。ドラッカーは「 The Theory of the Business (企業永続の理論)」で、上記のうち(1)のみに焦点を当てています。

読む側も「予期せぬ成功と失敗を利用する」だけで十分でしょう。私の言いたいことはシンプルです。『イノベーションと企業家精神』は読む価値があります。お急ぎの方は、「ドラッカー名著集5」ならば、44ページまでをお読みください。それで十分です。

     

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