■簡潔明確な文構造について:【A⇒B】と【C+[A⇒B]】
1 文のわかりやすさ
ちょっとした宿題がありました。【よりよき文を作るための文法:文章の価値・規範
】(2022-10-14)に例文を載せていました。4つの例文のうち、三上章が『日本語の構文』であげていたものが[1]です。これを変形させたものがその後の3つの例文になります。
[1] チョムスキーの文法論は数学的に厳密な形式を有することに一つの大きな特徴がある。
[2] 数学的に厳密な形式を有することにチョムスキーの文法論の一つの大きな特徴がある。
[3] 数学的に厳密な形式を有することがチョムスキーの文法論の一つの大きな特徴である。
[4] チョムスキーの文法論の一つの大きな特徴は数学的に厳密な形式を有することである。
こうした実例を見れば、例文の不適切さに気がつくだろうと思いました。適切な例文をもとに日本語文法を構築しないと、その文法を使って簡潔で明確な文を書くことができません。前回、例文の書き換え法について書いていませんでした。簡単に書いておきます。
2 シンプルで明確な構造
[1]を見ると、「チョムスキーの文法論」が文頭にあります。それが頭にあったのでしょう。しかしその後が、すっきりしていません。これで伝わるにしても、わかりやすい文ではないでしょう。実際に確認してみると、わかりにくいという人のほうが多いのです。
「チョムスキーの文法論には特徴がある」のです。どんな特徴かといえば「数学的に厳密な形式を有する」とのことでした。それならば両者を論理的に結びつければよいのです。「チョムスキーの文法論の特徴」=「数学的に厳密な形式を有すること」になります。
ここで「一つの大きな特徴]というのは、ややうるさく感じる言い方です。例文[4]も冗長な感じがします。自然な文にするなら、「チョムスキーの文法論の特徴は、数学的に厳密な形式を有することである」といったところでしょう。この方が簡潔で明確です。
3 原則となる【A⇒B】の形式
日本語の場合、一般に、何に関することであるかを示す言葉が前に置かれ、それについての叙述がその後ろに置かれます。このとき前の言葉の複合体と、後ろの言葉の複合体の関係が明確であるかが問題です。【A⇒B】の形式はシンプルな点で有利になります。
このときのAとBとの関係は、どうでしょうか。明確であるという場合、論理的であることが一般的です。具体的に言うと【A⇒B】形式の場合、AがBの主体であることになります。「特徴は…形式を有することです」という言い方が自然でわかりやすいしょう。
例文[1]「チョムスキーの文法論は数学的に厳密な形式を有することに一つの大きな特徴がある」の文末は「ある」です。「ある」のは「数学的に…」以下「特徴」までですから、文頭の「チョムスキーの文法論は」は、後の部分と論理関係をもっていません。
【A⇒B】ならば簡潔で明快です。これが【C+[A⇒B]】になると、それだけ複雑な形式になって、その結果、明確性が低下します。【C+[A⇒B]】は標準的な形式ではありません。この形式を文法構築の中核にしてしまうと、実用的な文法にはなりません。