■絵本で選んだゴリラに「が」をつける理由:助詞「は」と「が」の違い

      

1 なぜ「ゴリラが」なのか

小学校1年生が作文を書こうとするとき、何を書いたらいいのかで困ってしまいます。そのため、動物がたくさんいる絵本などを使って、その中のことを書くようにと話すことがあります。1年生は、その中から選んで、「ゴリラが」と言うことになるのです。

「ゴリラが」でなくてはなりません。「ゴリラは」ではないのです。なぜでしょうか。まずゴリラがセンテンスの主体となることは間違いないのです。子供の感覚で言うと、センテンスの主役がゴリラになります。この主役がどうしたのかを書くことが作文です。

絵本にはたくさんの動物がいます。その中から選び出したものがゴリラでした。それならば、「は」でなくて「が」にならなくてはおかしいのです。選択・決定したものには「が」がつきます。すでに選出されて特定され、それに限定する場合なら「は」です。

      

2 ポジティブとネガティブの差

日本語だろうが、英語だろうが、何かをした場合に、その行為主体がわからないと、文の意味が分かりません。だから、行為主体が文脈からわかっているのならあえて記述する必要はありませんが、わからなかったら、主体を明示しなくてはなりません。

このとき選び出したものならば、「が」が接続されて、主体となります。主体となるにしても、接続する助詞が「が」になるか「は」になるかで、ニュアンスが違うのです。こうした使い分けがある方が、言葉としては便利です。どんな主体かわかります。

こんなことは、みんな感覚的にわかっているのです。(1)「あの子、返事がいいの」と(2)「あの子、返事はいいの」では違いがあります。この違いが分からないと、困るでしょう。(1)の場合、「あの子」への評価がポジティブですが、(2)の場合、ネガティブです。

     

3 「返事が」をポジティブに評価する理由

(1)「あの子、返事がいいの」の場合、「あの子」はいい子なのです。これがわからない人はいないでしょう。それでは、なぜ「あの子」に対してポジティブな印象が作られるのでしょうか。簡単に答えられないことがあるのです。理屈を知っておきましょう。

難しい話ではありません。「が」が問題でした。「返事が」というのだから、いろいろと良いものがある中から選んでいるはずです。こうしたポジティブなものの中でも、とくに「返事」がよいということになります。だからあの子全体もポジティブな評価です。

「返事は」ならば、返事以外は語っていないのですから、「返事だけなら、いいんだよね…」というニュアンスになります。「返事は」と言ってしまうと、返事を特定したうえで、返事に限定していますから、それ以外、良いところがないという感じがするのです。

絵本の中から、ゴリラを選び出した小学校1年生が、「ゴリラが」というのは正しい「が」の使い方です。なんで「ゴリラが」になるのかと言われたら、助詞「が」は選び出して決定するという機能を持っているから、と答えればよいことになります。

     

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