■主題の概念の妥当性:日本語文法講義 第25回から

       

1 「補足成分」と「状況成分」の復習

主題についてみていく前に、文の成分について復習しておきましょう。成分は「述語・述語修飾成分・補足成分・状況成分・主題」5つでした。注意が必要なのは「状況成分」と「補足成分」でした。解説で2つの例文をあげていますので、確認していきましょう。

(a) 家族皆で先週の土曜に花見に出かけた。
(b) 先週の土曜日、近所で火事があった。 『岩波講座言語の科学 5 文法』

例文では「先週の土曜」が共通している言葉です。例文(a)の「先週の土曜に」は補足成分になります。「いつ出かけたのか」を補足しているということでしょう。これが状況成分にならないのは、文頭に置かれていない点から明らかです。構造は、以下です。
・家族皆で   出かけた
・先週の土曜に 出かけた
・花見に    出かけた

あとの例文(b)の文の「先週の土曜日」と「近所で」は状況成分です。「先週の土曜日」が、述語を修飾していて、さらに文頭に置かれています。「出来事が生起した時と場所を表すもの」ですので状況成分と言ってよいでしょう。文の構想は以下になります。
・先週の土曜日 あった
・近所で    あった
・火事が    あった

     

2 主題の概念についての説明

さて復習はこのくらいにして、問題となる主題の話です。これをどう説明するかが問われます。[「~は」という表現を主題成分(または、単に主題 topic)と呼ぶ](p.46)とのこと。問題は、実質的な概念の方です。以下のように説明されています。

▼「~は」という成分は、「~について言えば」という意味を表し、それに続く表現がその成分に対する説明を与えている点が特徴的である。 pp..45-46『岩波講座言語の科学 5 文法』

形式的に言えば、「は」接続のものが主題であり、「が」接続が「補足成分」になります。「は」接続と「が」接続の違いはどこにあるのか、ここでも例文をあげて解説しています。
(c) 空は青い。
(d) 空が真っ暗だ。

(c)の「空は青い」の場合、[「空」というものに対して「青い」という説明を与えている]とのこと。(d)の「空が真っ暗だ」の場合、[「空が真っ暗だ」という観察された状況をそのまま言葉で描きあげている]ということになります。

主題の場合、説明の対象を示しているのです。一方、「補足成分」だと、「観察された状況を描いている」ことになります。観察された状況を描くときには「~が」接続、「~は」接続のときには、観察でなく対象の説明になるということです。

     

3 観察された状況を描く「~は」:説明の矛盾

しかし益岡の説明では、おかしなことが起こります。たとえば、ガガーリンは「地球は青かった」と言ったはずです。「~は」なので観察したものではなくて、対象の説明になるはずでした。しかしこの言葉は宇宙から地球を見ての言葉、まさに観察したものです。

例文の「空は青い」を「空は青かった」にしただけで、観察しているというニュアンスになります。「青い」を「青かった」にしたなら、「空は」が主題でなくなるのでしょうか。そうはなりませんね。そうすると、ここの部分の説明はおかしいのです。

「空は青かった」でも「空が青かった」でも、観察された状況を描いていると感じます。主題は「~について言えば」という意味だそうですから、「空について言えば、青かった」となるはずです。「空は」と「空が」のケースを見ていく必要があります。

     

4 役立つ文法書を求めて

たとえば、「夕方で、雨上がりでしたけどね、空について言えば、青かったですね。それがいろいろあった中で、一番印象に残っています」という場合、「空について言えば、青かったです」を簡潔に表現するなら、どうでしょう。「空が青かった」となりませんか。

ここで最後の言葉を少し変えて、「夕方で、雨上がりでしたけどね、空について言えば、青かったですね。それだけしか覚えていません」という言葉ならどうでしょう。「空について言えば、青かったです」を簡潔に表現するなら、「空は青かった」でしょう。

様々なものから、空を選んで青かったということなら「空が青かった」です。空の青かったことだけの話をするなら、「空は青かった」でしょう。益岡の説明には妙なところがあります。残念ながらこの種の説明で、きちんとしたものなどそう簡単に見つかりません。

『岩波講座言語の科学 5 文法』「2 文法の基礎概念Ⅰ」はその中でも、明快な説明のなされたものです。だからこそ、おかしいと指摘できます。しかし日本語について考えるとき、読むべき文法書がないのは残念です。役立たなければ、文法書など読まれません。

      

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