■述語・述語修飾成分・補足成分・状況成分:現代の文章:日本語文法講義 第25回から

      

1 基礎概念はごくわずか

日本語文法の基礎概念はごくわずかです。しかしそこで誤解が生じかねませんから、きっちり理解しましょう。この点、『岩波講座言語の科学 5 文法』の「2 文法の基礎概念Ⅰ」はよくまとまっていますし、丁寧に読めば、わかるように書かれています。

この本は1997年の出版ですから、その後の変化については書かれていません。しかし基本的概念の記述はすぐれています。これがわかれば、その後の動向も理解しやすくなるはずです。まずこれを理解すべきでしょう。筆者の益岡隆志は例文をあげていました。

例文を5つに分けて、「先日/北海道で/A山が/激しく/噴火した」となっていました。「噴火した」が述語です。「激しく」は[噴火のありさまを説明している。このような成分を述語修飾成分と呼ぶ](p.45)とあります。これは、わかるでしょう。

       

2 「状況成分」とは

次に「先日/北海道で」を「状況成分」と呼んでいます。[文頭において、出来事が生起した時と場所を表すもの]です。要件は、「述語修飾成分」であることに加えて、①文頭に表れていること、②出来事が生起した時と場所を表すもの…になります。

「A山が先日、激しく噴火した」ならば、「先日」は文頭にないので状況成分になりません。注意が必要です。「A山が先日、北海道で、激しく噴火した」という文の場合、「先日/北海道で/激しく」が述語修飾成分になって、3つが同類に扱われるのです。

おそらく違和感があるでしょう。狭すぎる概念を提示すると、そこから漏れたものが、おかしな分類になることがあります。その弊害に陥っていると感じさせられます。①の「文頭」の条件を外し、②の「時と場所」以外の条件も考慮する必要があるかもしれません。

先の例文を変形すると、「先日、北海道で、激しく噴火したのがA山でした」になります。この例文では「先日、北海道で」は文頭にあって、時・場所を表していますが、述語「A山でした」を修飾していません。注意が必要です。「状況成分」ではありません。

        

3 「補足成分」とは

「先日/北海道で/A山が/激しく/噴火した」の「A山が」以外は、成分名がわかりました。では「A山が」はどんな成分になるでしょうか。[述語が表す事態に関する情報を補う役割を担っている]から[補足成分と呼ぶことにしよう](pp..44-45)とあります。

補足成分という概念は必ずしも明確ではありません。「述語が表す事態に関する情報を補う」とあります。「噴火した」という事態に関する情報を補っているかどうかが問題になるでしょう。「状況成分」と関連させながら、詰めていく必要がありそうです。

さらに「A山が」を補足成分だということは、「A山が」は主語でないことになります。主語の概念はどうなるでしょうか。益岡は明確です。[主語は述語と相互依存の関係にあって、その意味で、対等な関係にあるものと考えられる](p.46)と記しています。

       

4 「状況成分」「主題成分」「補足成分」「述語成分」「述語修飾成分」

益岡は、主語を述語と対等な相互依存関係にあるとは考えません。[主語否定論の立場に立つ]ことになり、述語が中心的要素だと考えるのです。例文の「A山が」は述語を補う存在であり、述語との「相互依存の関係」「対等な関係」はないと考えます。

ここで、[主語肯定論の立場に立つ見方もある](p.46)という書き方をしている点にも、注意しておきましょう。主語否定論の方が有力だということです。ただし、[この問題はまだ解決されたとは言えない](p.47)とも書きそえられています。

述語の概念がいびつですから、「相互依存の関係」「対等な関係」にはならないという立場にもありうる見解です。しかし、これでは日本語の構造は説明できません。そこで補正が必要になります。それが主題の概念です。このときの説明の仕方が問われます。

ひとまず主題の話は、次にふれましょう。そうなると成分に関して、これで終わりになります。日本語の基本構造を作っている成分は、主題を加えれば、これで全てです。列記すれば「述語成分」「補足成分」「述語修飾成分」「状況成分」「主題成分」になります。

     

カテゴリー: 日本語 パーマリンク