■山崎正和の本:「それぞれの山崎正和」を読みながら

       

1 「それぞれの山崎正和」

エマニュエル・トッドのことを書いたら、どうしたわけか山崎正和のことが気になりました。山崎が時事的なことをあれこれ言ったわけではありません。この人は、めずらしいくらい折り目正しい知識人だという気がします。2020年に亡くなりました。

もはやトッドの文章を、安心して読めなくなりました。昨日取り上げた『問題は英国ではない、EUなのだ』でも[ロシアと友好関係を築くことは、日本の外交上、最優先事項](p.199)で、[アメリカが、ロシアと融和していく]シナリオもあるとのこと(p.200)。

2015年の『トッド 自身を語る』で、[すでにいくつもの予言が当たっているのですから、私としては、中国について無益なリスクを冒して、予言者としての自分のイメージを台無しにするような真似はできませんよ]と語っていますから、今後に期待できません。

そうなると、日本語で安心して読めるのは、山崎正和ではないかという気がしてきます。しかし、よい読者ではありませんでしたから、「それぞれの山崎正和」(別冊 アステイオン)を引っ張り出してきました。当然というか、やはり人それぞれです。

     

2 『社交する人間』へのコメント

「それぞれの山崎正和」には60人以上の人が文章を寄せています。その中で、高階秀爾の「人間とは何かを問い続けた生涯」は先頭に置かれるだけの価値ある文章でした。そして[『生存のための表現』を、山崎人間論の最初の重要な成果と呼ぶ](p.16)と記します。

高階は[「人間とは何か」を問う山崎さんの次の人間論『社交する人間 ホモ・ソシアリビリス』]を山崎の代表作と考えているようです。高階は[舞台となる「社会」といういささか曖昧な概念に明確な内容規定を与え]る本であるとポイントを示します。

「山崎正和先生の仕事と思い出」の張競が、『社交する人間』の中で示された[理想的な人間関係のモデル]が[現実離れした空論ではなく]、ひどいいじめにあった[満州から引き揚げ後の体験]によるものと推定(p.23)しているのは大切な指摘でした。

      

3 おすすめは『二十一世紀の遠景』

多くの人が『鴎外 闘う家長』と『不機嫌の時代』をあげていました。当然かもしれません。あるいは『柔らかい個人主義の誕生』をあげる人もいます。こちらも妥当なものだろうと思います。また『舞台をまわす 舞台がまわる』は大切で面白い本です。

しかしほとんどの人が触れないでいる本を、私は読み返したいと思っていました。山崎正和の代表作とは言えないでしょうが、語りをもとにした本ですから、読みやすいことは確かです。山崎正和入門にもなると思っています。『二十一世紀の遠景』のことです。

「若い国アメリカ」のことや、「世俗的なプラグマティズム」について、あるいは「人権の世紀」「情報化の世紀」「『仕事と労働』のかたち」など、興味を引く内容になっています。ずいぶん前にブログでも取り上げていました。埋もれてしまうのは惜しい本です。

      

      

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