■「シリアス」と「リアル(ライブ)」の重視:冨山和彦『AI経営で会社は甦る』から

     

1 2018年読者が選ぶビジネス書グランプリに選ばれた本

ビジネス書というのは、賞味期限が短いものが多いと言われています。その中で、生き残るのは大変なことです。たまたま本の山から崩れ落ちた中に冨山和彦『AI経営で会社は甦る』がありました。さて保存しておくべきか、処分すべきかということになります。

2017年3月出版の本ですから、5年前のものです。内容を判断するのには、十分な期間がたったと言えるでしょう。2018年読者が選ぶビジネス書グランプリに選ばれた本ですから、読者の人気がどんなモノかもわかるかもしれません。そんな気持ちで読みました。

冨山和彦氏の著作をそれほど読んでいませんので、この本だけで判断します。この本に書かれていることで判断するとして、どうかということです。古さを感じさせるのは仕方ありません。カルロス・ゴーンを評価するなど(p.160)、あらあらという気がします。

2017年の本ならば、このゴーン評価は意外です。ゴーン時代の日産のある種の異常さは、私にも聞こえてきていました。個別企業についてご存知ないのかという気もします。しかし、これは小さな問題です。この本には、いいところとそうでないところがあります。

       

2 個別企業の評価

「企業を遺伝子レベルで根っこから改革できるか」という項目がありました。[たとえ10年かかろうと、DNAレベルで体質改善を進めなければならないのだ](p.161)とあります。これは無理でしょう。そうするよりも、新しくつくったほうがいいモノになります。

GEのジャック・ウェルチの事例をあげていますが、こちらも、2017年なら十分にその後のGEの経緯も分かっているはずです。何度か出てくるコマツの事例でも、少しずれた観点から書かれている気がします。個別企業についての評価はおかしな感じがしました。

「ホンダのASIMO(アシモ)の時代がいよいよやってくる?」という項目があります。[先を行き過ぎた感のあるASIMOに、ここにきて世の中が追いついてきたとも言える状況が生まれている](p.111)とのこと。ご存知の通り、開発中止になりました。

      

3 「シリアス」と「リアル(ライブ)」の重視

事例を扱う部分で、それらがピタリと当たっているなら、それはとてつもなくすごい本でしょう。名著として何度となく読むべきです。たいていの本はズレます。仕方ありません。何か役立つところがあれば、それで十分です。この本には、それがあります。

「カジュアルからシリアスへ」というコンセプトです。[お気軽に拙速にどんどん試行錯誤を繰り返す組織能力、企業文化は、むしろ命取りになりかねない](p.5)とあります。注目すべき指摘です。経営の仕方に変化がやってきます。以下は大切な点です。

▼経営上の真の差別化資源はより人的、知的なものになり、それも個に依存するものと、集団に依存するものに分かれていくとともに、全体的には前者がより大きな意味を持つようになる。 p.7 『AI経営で会社は甦る』

[新鮮な「リアル」性を持たなければ「マネタイズ」が難しい](p.47)との指摘も大切でしょう。だから「ライブコンテンツのネット配信」にはチャンスがあるのです。この本の、「シリアス」と「リアル(ライブ)」の重視というのは大切な指摘だと思います。

     

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