■現代の文章:日本語文法講義 第15回の概要:「言文一致の効果:文末の確立と品詞」

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1 言文一致体の開発

翻訳が日本語に新しい表現を生み出してきました。翻訳の影響により日本語は変容したのです。論理性の獲得だけでなく、言文一致の文体を開発することが必要でした。文体の口語化とは、言文を一致させる方向に進めるということです。特に文末が問題になります。

加賀野井秀一は『日本語は進化する』で、[日本語では結論が文末に来る。当然ながら、話者の主体的な態度は、文末の助辞類によって表明されることになるはずだ](p.107)と文末表現の重要性を指摘します。先人は口語用に2系統の文末表現を生み出したのです。

文末の通常体には終止形に加えて「だ/である」体が作られました。一方、丁寧体として「です/ます」体が開発されたのです。こうして口語の文体が整備された結果、文体が話し言葉に近づくとともに、話のスタイルが口語文体に近づいてくることになりました。

桑原武夫が司馬遼太郎に答えます。[しゃべったのがそのまま模範文になるというのは偉い人、エリートだけですよ。それに彼らは必ず原稿を用意してきて、それを読むのです](p.228 『日本人を考える』)。日本語でも演説用の文章が書けるようになったのです。

      

2 文末表現と名詞・形容詞・動詞の区分

言文一致体を開発し、文末表現を整備した結果、日本語の文末表現から言葉の種類分けができるようになりました。言葉の種類分けとは、ここでは品詞分類のことです。終止形・【です・ます】【だ・である】の文末表現の接続を見れば、品詞分けができます。

名詞の場合、活用形がありません。丁寧体の文末接続ならば【です】、通常体ならば【だ・である】の接続です。形容詞の場合、文末表現の丁寧体は【です】接続になりますから、【美しい】は【美しい・です】の文末表現が可能なため、形容詞と判定されます。

【動く】の場合、【動く】【動き・ます】という文末表現が可能ならば、動詞です。一方、【動き・です】のように、イ段の言葉が【ます】接続でなく【です】接続ならば、名詞ということになります。以下のまとめを見れば、品詞区分がわかるでしょう。

[1] 名詞  丁寧体【+です】/通常体【+だ・である】
[2] 形容詞 丁寧体【+です】/通常体【終止形】
[3] 動詞  丁寧体【+ます】/通常体【終止形】

      

3 存在しない形容動詞

このように文末表現のあり方を確認すれば、活用の有無がわかります。活用形のない言葉が体言であり、活用形のある言葉が用言です。こうした点からすると、形容動詞という品詞は存在しないことになります。「きれい・幸福・キュート」を見てみましょう。

①【きれい】 :丁寧体【きれい+です】 通常体【きれい+だ・である】
②【幸福】  :丁寧体【幸福+です】  通常体【幸福+だ・である】
③【キュート】:丁寧体【キュート+です】通常体【キュート+だ・である】

これらは用言ではありません。体言だということです。形容動詞は用言に分類されていますから、少なくとも形容動詞ではありません。【形容名詞】という名前の体言を考えることも出来るでしょうが、もう少し別の観点から考える必要があるでしょう。

散文を開発する過程で、日本語は言文一致体の文末を確立させました。その文末が確立したために、活用の有無が明確に判断できるようになったのです。体言と用言の区分が明確になったといえます。文末表現が品詞を区分する基準にもなっているということです。

       

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