■西堀栄三郎のイノベーション理論:探検的精神
1 探検的精神が必要
西堀栄三郎は飛び抜けて創造的な人でした。こういう人の方法は古くなりにくいようです。1972年に先立つ講演での話をまとめた『石橋を叩けば渡れない』は、50年以上たっても古くなっていません。日本人の書いた最高のマネジメントの本だろうと思います。
イノベーションという言葉を使ってはいませんが、西堀のイノベーション理論ともいうべきものがこの本の中心テーマです。西堀は科学と技術の違いを強調します。科学は獲得された知識であり人類の財産です。技術は何かの目的に使う存在ということになります。
科学と技術の違いを認識しておかないと、力が発揮できません。[科学で知識を得た人と、その知識を使って人類の役に立たせた人とは、例えそれを同じ人がやったとしても、それは別人格](p.19)だと西堀は主張します。モノにするには目的が必要なのです。
したがってビジネスでは目的が先だちます。自ら開発するのみならず、目的達成に使えるものを見出す必要があるのです。このとき問われるのは、[知識を、使うか使わないかという意思の問題です](p.28)。そのとき探検的精神が必要だと西堀は主張します。
2 決心してから実行案を考える
探検的精神では、第一に[何か新しいことをするときには、まずそれを、やるかやらないのか決めることが必要]です。[決心してから実行案を考えるのでなければ、新しいことは出来ません](p.49)と西堀は言います。そうなると調査の仕方も変わってきます。
[やるという前提のもとにする調査]ですから、[どうすればリスクが減らせるかということに集中した調査にな]るのです。このとき[完全な準備というものは絶対に出来ない]のですから、[必ず思いもよらないことが起こるにきまっています](p.50)。
だから思いもよらないことに対して[これをどう処置するかということが、新しいことをする人間の、常に考えておかなければならないこと](p.51)です。[それは何でもない、ただひとつ、臨機応変の処置をとるほかはない](p.52)という覚悟になります。
3 どうすれば創造性が発揮できるかを勉強する
調査をして、リスクの準備をし、リスクを減らすプロセスは[全部ロジックで成り立っています]が、[臨機応変の処置にいたる系列のほうは、むしろノンロジック]です。つまり[直感的な感覚的なものです]からトレーニングや修業が必要となります(p.62)。
[創意工夫に頼るほかはない]から、その能力を高める訓練をするのです。それは第一に[何でもいいから、おれは創意工夫でやるんだと]思うこと、第二に[絶対にあきらめたらいかん、何とかなる、何とかしてやるぞ](p.65)と思うことだと西堀は言います。
[人間性とは創造性を発揮すること](p.138)だから[自分自身がどうすればこの創造性を発揮できるかということを、徹底的に勉強し、努力しなければいけません](p.145)。個人も組織も[調子に乗らなければだめなのだ](p.161)ということです。
創意工夫する状態とは、調子に乗った状態であり、そのとき[切迫感というものを、どういうふうにして持たすかが非常に重要](p.178)です。これはノンロジックなものをシステム化する発想であり、イノベーション論の基礎に置くべきアプローチだと思います。