■日本人によるマネジメントの古典:西堀栄三郎『石橋を叩けば渡れない』
1 伝説の人物の主著
イノベーションに関連する本を読むうち、ふと気になって西堀栄三郎の『石橋を叩けば渡れない』を読むことになりました。この本こそ、日本人が書いたマネジメントの古典だと思います。西堀自身が新しいことをやり、圧倒的な成果を上げてきました。
今では伝説の人物と言ってもよいかもしれません。南極越冬隊長でしたし、雪山賛歌の作詞者でもありました。品質管理の指導者だったデミングが一番信頼していたとか、QCサークルのモチベーション効果を論じたジュランに影響を与えたとも言われます。
西堀自身は、旭化成やいまの日本製鉄で指導を行って大きな成果を上げてきました。日本のコンサルタントの草分けとも言っていい人です。『石橋を叩けば渡れない』は西堀の主著と言ってもよい本であり、講演で話したものをテーマごとに整理したものでした。
2 日常の言葉でマネジメントを語る本
講演での話ですから、わかりやすい言い方になっています。[目的を果たしながら、最も要領よく手をぬくこと]、これが能率の定義です。[目的を果たせば、途中のプロセスは、実はたいした問題ではない]。逆に手が込んでいるのはダメだという考えです。
こうやって日常の言葉でマネジメントを説明しています。どうやらご本人にはマネジメントを語っているつもりがないようです。もともとが講演での話ですから、さらっと読めてしまいますが、そんなに簡単な話ばかりではありません。本気で読むべき本です。
1972年に出た本ですが、いまだに古びていません。品質管理について、[ワシントンからいろいろな書物を取り寄せて、見せてくれるというのです。私と日本電気の西尾さんという方と二人だけで、GHQへその講義を聞きにゆきました]とのこと。
▼私は、これは勉強しなければならないなと思って、一生懸命勉強を始めたわけですが、その人たちのいっていることに、眉につばをつけながら話を聞き、また書物の、行と行の間を読むようにして、書いてあること自身には、せいぜい信頼をおかないようにもしたのです。 p.149
3 コントロールは調整・運転のこと
西堀は[私は私なりに、コントロールというものの見方といいますか、そういうものを作り上げたわけです]と語っています。西堀の考えでは、クウォリティ・コントロールを「品質管理」と訳すのは間違いです。「管理」という言葉のニュアンスが違います。
▼それは管理ではなくて、コントロールである。だから、むしろ調節といったほうがいいかもしれない。あるいは、運転という意味にとったほうがいいのかもしれない、と考えています。 p.152
調節、運転という概念で考えていくと、チェックということでは済まなくなります。[フィードバック・システムの活用]が必要です。そしてフィードバックには、ネガティブ・フィードバックとポジティブ・フィードバックという二つがあることになります。
▼フィードバックは「結果」に学ぶことであり、結果には失敗と成功とがある。失敗したら次のときからは失敗しないようにと失敗に十分に教えられ、成功したらますます成功するようにポジティブ・フィードバックをかける。 p.160
ネガティブ・フィードバックに関して、2000年に畑村洋太郎が『失敗学のすすめ』を書いています。もう一度、西堀のこの本をマネジメントの本として、きっちり読みなおす必要がありそうです。必読の文献であると、あらためて思っています。