■福田歓一の使った汎用的な構成法

      

1 内容を整理するための汎用的な形式

民主主義について、再確認してみようと思って福田歓一の『近代民主主義とその展望』(1977年)を読んでみました。それを【「民主主義」という概念】に書いています。そのとき文章構成がすばらしいので【論文・レポートのお手本】を書くことになりました。

構成の仕方が内容を整理する手段そのものになっています。福田オリジナルのものではなくて、汎用性を持ったフレームです。この本に限ったことではないだろうと思いました。1970年の『近代の政治思想』の場合も、以下の通りです。上記を書く気になりました。

序説 主題の意味と行論の構成
一 中世政治思想解体の諸相
二 近代政治思想の現実的前提
三 近代政治思想の原理構成
結び 遺産と現代

この本が、おそらく福田歓一の著作で一番読まれているものです。『近代民主主義とその展望』になっても構成は、「序説→序章」「一 →第一章」「結び→終章」といった違いしかありません。この形式で頭を整理して、内容を詰めているのだろうと思いました。

       

2 序・3つ4つの部分からなる本論・結

思考の整理の形式からすれば、福田は講義や講演でも、この形式で行っているに違いありません。「本論」の前・後に「序」と「結」がつく形式です。1976年に東京大学法学部で行った講義をもとにした『政治学史』の「はしがき」に、以下のようにありました。

▼著者は故セイバイン教授の通史G.H.Ssabine, A History of Political Theory(1937)が、都市国家の理論、不変共同体の理論、国民国家の理論の3部構成をとっていることに、とくに多くの示唆を受けた。

本論を3つとか4つの部分に分けて、その前後に「序・結」をつければ、全体で三部構成になります。それがひとまとまりです。実際、2000年の「第二回丸山眞男文庫記念講演」の講演録「丸山眞男とその時代」を見ると、以下のように構成されていました。

はじめに
一 大正デモクラシーの光と影
二 戦時下の学究生活
三 新憲法制定と講和条約の締結
四 戦後の曲折のなかで
おわりに

     

3 講演をするための準備

福田は講演録の「はじめに」で、[丸山先生が成長され、学問を築かれた時代がどういう時代であったか]を話していくと語っています。丸山眞男は、1914(大正3)年に生まれ、 1996(平成8)年に亡くなりました。その間の時代を福田は4つに分けたのです。

[ただこれは副次的な狙いで]あり、[丸山先生の学問がいわば先生の時代との格闘の中で生み出された、その形成の背景と関連させながら、先生について考えてみたいのです](p.3)と、講演の構成が時代区分に従ったものになった理由を、冒頭で語っています。

1時間の講演予定が1時間20分になり、それに加筆したものですから1時間半というよりも2時間ほどの内容でしょう。およそ60ページあります。では、これだけのものを作り上げるのに、どれだけの労力をかけているのでしょうか。以下の通り大変な労力です。

▼四十日ほど講演の準備に集中、多様な聴衆の興味をつなぐこと、予告されている一時間に明確なメッセージを伝えることを目標に、構成を考え、カードを作り、メモをこしらえて、配置を考え、時間に余裕のできた場合のものも用意した。それでも当日朝までに完成できぬまま会場に赴いた。 p.61 「丸山眞男とその時代」岩波ブックレット

     

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