■論文・レポートのお手本:福田歓一『近代民主主義とその展望』の形式

     

1 構成がきっちりしている福田の著作

福田歓一という学者は特別な学者でしょう。いくつかの著作を大切にしています。おそらく今後も少なくない主要な著書が重視されることと思います。前回『近代民主主義とその展望』について書きました。福田の著作の中でも、あまり読まれていません。

たしかに時代の影響もあって、古くなったところもあるのです。書き出しの段落でも、[特に問題と思われるのは、民主主義という言葉に対する幻滅、拒否反応が非常に強いのが、青年たちだという点であります]と記されています。いまはむかしの話です。

もはや民主主義がどうしたこうしたと言わなくても、明らかに民主主義に反するものに対して、若者たちがそれを実感したなら、ただちに拒否反応が出てきます。1977年当時とは状況が違っています。当時の「青年たち」は民主主義を実感できなかったのでしょう。

それでは福田のこの本に価値がないのかと言えば、そうではありません。古くなった内容はいりませんが、それ以外のところに読むべき価値があります。すぐにわかるのが、本の構成のきっちりしたところです。頭の働かせ方が違うのかもしれないとさえ思います。

     

2 折り目正しい三部構成

民主主義という総論について、前回書こうと思ったとき、引用すべき部分が「序説」と「終章」に集中していました。全体の構成から、そうなっているのです。この本は全体を5つの章から構成されています。以下に見る通り、折り目正しい構成です。

序章 現代史の中の民主主義
第一章 民主主義の歴史
第二章 民主主義の理論
第三章 現代の民主主義
終章 民主主義の展望のために

全体の5章が三部構成になっているのはお分かりでしょう。最初の部分が「序章」です。ここで全体の状況が把握できるようになっています。その次の部分は「第一章・第二章・第三章」です。ここで経緯と理論が語られます。最後が「終章」です。

最初におかれた「序章」に、民主主義についての基本が記されています。20ページで、十分得るところのある内容です。この部分だけでも完結した読み物としても成り立つでしょう。その上に、序章の最後のまとめかたがうまいのです。ここを引用しておきます。

▼こうしてみると、現代史は東も西もまた南も、それぞれに大きな問題を抱えて、まるで八方手詰まりに見えます。こういう状態を打ち破って行くためにもう一度民主主義を見直してみたい。それが、これからの話の動機なのであります。 p.20 『近代民主主義とその展望』

     

3 学ぶべき正統派の形式

序章を読んで満足した読者なら、ここで区切られたら困ってしまうでしょう。やはりその先を読みたくなります。読者を引っ張っていく力があるのです。それが正統派の形式でなされています。そのため、こうした点を大いに学ぶべきだろうと思いました。

論文の書き方のお手本、あるいはレポートの書き方のお手本というべきです。「あとがき」で福田は[民主主義は、それを意識すると否とを問わず、もっとも大きな課題であり続けたと思う]と記しています。中心テーマだからこそ、この形式になったのでしょう。

内容に関しては、前回ご紹介した部分に興味がある方なら、お読みになって損はありません。たまたまレポートの採点をした後でしたので、みごとな構成をみると、これに触れないわけにはいかないと思いました。もう一度、構成のお手本として読み返しています。

       

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