■「民主主義」という概念:福田歓一『近代民主主義とその展望』から

      

1 ネガティブな意味を持っていた民主主義

最近、民主主義という言葉がよく聞かれるようになってきました。わかりきった言葉のように思いますが、民主主義という言葉の概念は、かならずしも明確ではありません。そもそも民主主義という言葉は、たぶんポジティブなものではなかったはずです。

気になって福田歓一『近代民主主義とその展望』を見てみました。ああ、やはりそうです。最初はよろしくないニュアンスの言葉だったものが、ある時からいい意味の言葉に変わっていったのだと語っています。よろしくなかったのは、以下のような理由です。

▼そもそも民主主義という言葉は、ヨーロッパでは長いことロベスピエールの独裁政治・恐怖政治のイメイジと結びついて、暴民の支配、テロの支配として恐怖心を呼び起こす言葉であったのであります。 p.4 『近代民主主義とその展望』

ヨーロッパで[いい意味を持った言葉として確立したのはこの第一次世界大戦のとき](p.3)でした。[英・仏など協商国]が[「この戦争は、ドイツの軍国主義に対する民主主義のための戦争である」という言い分](p.4)を主張したためとのことです。

       

2 民主主義を擁護した理由

なぜ[軍国主義に対する民主主義の擁護]と言ったのか。これは現実的な理由でした。帝政ドイツでは、民主主義という言葉が[一貫して君主制に反対するという意味を持っていた](p.4)のです。ドイツは軍国主義というべき存在であって、力を持っていました。

▼ヨーロッパの立憲主義・自由主義の国々は、独力でもってドイツの軍国主義に勝つことができないので、はっきりと民主主義国であった米国を味方に引き込むことによって、かろうじてドイツに勝った。 p.5 『近代民主主義とその展望』

民主主義の勝利です。敗戦国のドイツも[ワイマール憲法によって共和制を実現]します(p.6)。しかし旧協商国側は[仮借なく賠償を取り立てようとし]、一方で[ナチスのような無法の権力が現れるとかえって妥協的になるという失敗をやった](p.7)のです。

1929年に[アメリカにはじまる世界恐慌]が起こり、ドイツではワイマール帝国が崩壊します。ここでまた、ねじれが生じるのです。第二次大戦の連合国にソ連が加わったため、[ソ連共産主義もまた民主主義の中に含まれたのであります](p.9)。

     

3 民主主義の原点

「民主主義」がよい意味になったものの、該当国の認定がぶれました。いまこそもう一度、基礎を押えるべきでしょう。[万人に当事者の地位を与えるという民主主義の原則](p.207)を重視することが必要です。当然、自由な選挙が前提条件となります。

▼民主主義は、それがどんなによい言葉になったとしても、人間のすべての問題を片付けてくれる万能薬ではありません。民主主義は、それがどんなに立派に制度化されたとしても、それによって必ずしも人間が豊かな生活を送れるということを約束するものでもありません。 p.207 『近代民主主義とその展望』

当事者の地位に立つ私たちの問題です。[それが制度として機能するためには、この社会をつくっている一人一人の人間の資質を厳しく問い、一人一人の人間に対して、公共のために大きな献身と負担とを要求する、そういう体制にほかなりません](p.207)。

福田は、民主主義の[他に求めがたい長所]は[人間が政治生活を営むうえに、人間の尊厳と両立する]点にあると言います。大切な指摘です。1977年の本ですから妙なところもありますが、久しぶりに思い返して読み始めたら、面白いところ満載の本でした。

     

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