■小室直樹の「チャイナ共産主義帝国論」:『ソビエト帝国の最期』を参考に
1 『ソビエト帝国の最期』の時間軸
先日、本屋さんに行ったところ小室直樹『中国原論』の新装版が並んでいました。中国を知るために、いい本です。しかしチャイナ共産主義がいつまで持つかと、時間軸で考えたいと思うときには別の本が役立つだろうと思います。『ソビエト帝国の最期』です。
ソビエト帝国はチャイナ共産主義帝国ではありませんが、重要な補助線になります。[革命当時、ほとんど工業らしい工業をもたなかったソ連]が1980年代に、重要品目の生産でアメリカを追い抜きました。しかしソ連経済は[惨憺として目をあてられない]のです。
[ソ連の特権階級が][すさまじい特権を持]ち、[骨がらみの腐敗]が見られます(p.6~7)。それでも1930年代の大不況下なら[人々への問いかけのひとつ。「あなたは、貧困の中に自由を選ぶか。それとも、自由とひきかえに豊かさを選ぶか」]と言えました。
[ソ連人は、西ヨーロッパ式「自由」なんぞなくても平気](p.42)です。しかし[経済にイデオロギー基礎があるのだから、経済の不振は、とりもなおさず、社会全体の危機]になります。チャイナ共産主義も類似の構造でしょう。今後の経済動向が気になります。
2 ビスマルク、スターリン、鄧小平の後継者
チャイナ経済の発展を基礎づけたのは鄧小平でした。小室は書いていました。[スターリンの力量が、あまりにも巨大であった]、かつての[ドイツ帝国は、ビスマルクの巨大な力量によってつくられたものであった]のと同様です。後継者は力不足で挫折します。
ドイツの場合、[ドイツ軍は中立国ベルギーを通過してフランスに攻め込んだ]ため、英国が参戦することになりました。[ドイツは、国際条約なんか反故紙くらいにしか思っていないと宣伝され][世界中を相手にするような形にな]ります(p.130~131)。
ソ連ではスターリン後11年目からの[ブレジネフ十八年の失政]が致命的でした。[国防力の充実と世界における勢力の拡大に主眼を置いた]のです。その結果[西側の高度な技術と資本を導入し資源を開発し、経済を市場化する](p.135)チャンスを失いました。
3 「経済悪ければすべて悪し」
ソ連は[ドイツ経済を圧倒し]、1950年代に[英国経済を追い抜]きました(p.192)。しかし本来[資本主義社会の遺産はすべてこれを継承しているはずである。言論の自由、秘密投票…エトセトラ](p.173)。これらを欠いたまま、さらなる発展はありません。
鄧小平が西側の技術と資本を導入して経済発展をした頃とは、状況が変わってきました。国際法を順守する姿勢がなく、周辺に軍事的脅威を与え、人権侵害が批判されています。もはや資本の流入を拡大させるのは無理でしょう。勝負の山場は過ぎたようです。
[ロシアの強味は、そのアジア的なところ](p.20)にあります。ドイツのように[四年間の健闘]とはならないでしょう。ただ[ソ連に関しては、「経済悪ければすべて悪し」](p.44)です。類似の構造下にあるチャイナ経済は、難しいかじ取りを強いられます。
ソ連はスターリン後に史上初の人工衛星打ち上げと有人宇宙飛行を実現しました。[1975年にはアメリカ経済を追い抜くと、宣言](p.35)しますが、1962年にはキューバ危機を起こします。チャイナ共産主義帝国は、こうした時期をすでに過ぎてしまったようです。