■日本語の文法分析:感情の制御が明確性の条件

     

1 日本語文の4つの要素

ここしばらく日経新聞の社説のはじめの部分を素材にして、文法分析をしています。ビジネス人が練習するにはいい素材です。ただし日本語で文法分析をする場合、面倒なことがあります。分析方法が確立されていない点です。かんたんに分析法を確認しておきます。

「いつ・どこで、誰が・何を・どうした」というのが日本語の基本形の一つです。皆さんもお聞きになったことがあるでしょう。「いつ・どこで」がTPO、「誰が」が主役、「何を」が補足、「どうした」が文末…というふうに4つの要素に分けて考えます。

日本語の骨組みは、主役と文末が一番の中核になっていて、必要に応じて補足の言葉が加わり、さらに必要に応じてTPOの条件が加わります。この4つの要素を見出せば、文意が明確になるはずです。繰り返すうちに、自分の文章も明確になっていきます。

     

2 助詞「と」=「+」

▼政府はいつまで民間企業の賃上げに介入し続けるつもりなのか。賃金は労使協議で各社が自主的に判断して決めるのが原則だ。政府は賃上げにつながる環境整備に徹すべきだ。
11月26日の「新しい資本主義実現会議」の会合で、岸田文雄首相は経済3団体のトップに「最大限の賃上げが期待される」と呼びかけた。業績がコロナ前の水準に回復した企業には「3%を超える」と数字も明示した。

上記は2021年12月1日の社説「政府は賃上げ介入より環境整備を急げ」からの引用です。前回、最初の2文を分析してみました。そのあとの文も分析してみましょう。【政府は賃上げにつながる環境整備に徹すべきだ】。この文の構造自体はシンプルです。

要素で区切ると【政府は/賃上げにつながる環境整備に/徹すべきだ】になります。【政府は…環境整備に…徹すべきだ】という「誰は/何に/どうすべきだ」という形です。念のため言えば、【賃上げに】と【環境整備に】は同列ではありません。大丈夫でしょう。

【11月26日の「新しい資本主義実現会議」の会合で、岸田文雄首相は経済3団体のトップに「最大限の賃上げが期待される」と呼びかけた】。≪いつのどこで≫が冒頭にありますので、これがTPOです。「主役+文末」は【岸田文雄首相は…呼びかけた】でしょうか。

助詞「と」は「+」の役割を果たします。文末に足されて一体化されるのです。そのため「主役+文末」は【岸田文雄首相は】+【「最大限の賃上げが期待される」と呼びかけた】となります。呼びかけたのは「誰に」かと言えば、【経済3団体のトップに】です。

     

3 不明確さを生む感情の先走り

社説から引用した最後の文【業績がコロナ前の水準に回復した企業には「3%を超える」と数字も明示した】はどんな文構造でしょうか。文末は【明示した】のようです。「誰が」明示したのでしょうか。前の文から見ても、ここは「岸田文雄首相は」となります。

「主役+文末」は「岸田文雄首相は」+【明示した】。残りの部分が【業績がコロナ前の水準に回復した企業には「3%を超える」と数字も】です。面倒そうに見えますが、この部分が「誰に・何を」という構造であると気づけば、骨組みを作る要素も見えてきます。

【回復した企業には】【数字も】…【明示した】。助詞「と」=「+」ですから【「3%を超える」と数字も】になります。文を区切ると、【[岸田首相は]/業績がコロナ前の水準に回復した企業には/「3%を超える」と数字[も←を]/明示した】となるでしょう。

【[岸田首相は]・企業に・数字を・明示した】=「誰は・誰に・何を・どうした」の構造です。【3%を超える】とは【3%を超える[賃上げを期待する]】でしょうか。記述が乱暴で不明確です。感情の先走りが見られます。この点、書き出しから一貫しているのです。

    

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