■日本語の文法分析:主役の決定・文末の決定

   

1 がっかりさせられる書き出し

新人のビジネス人たちに、何回か文法分析のドリルを実施しています。仕事が忙しくなると、お休みになるような、気楽なものです。先月、一番難しいという声が上がったのは、2021年11月11日の日経新聞社説のドリルでした。先日これについて書いています。

今回は、2021年12月1日の社説「政府は賃上げ介入より環境整備を急げ」のはじめの部分を文法分析してみましょう。少し戸惑うところもあるかもしれません。このレベルが簡単にできるようでしたら、文法に関するドリルは合格といってよいでしょう。

▼政府はいつまで民間企業の賃上げに介入し続けるつもりなのか。賃金は労使協議で各社が自主的に判断して決めるのが原則だ。政府は賃上げにつながる環境整備に徹すべきだ。
11月26日の「新しい資本主義実現会議」の会合で、岸田文雄首相は経済3団体のトップに「最大限の賃上げが期待される」と呼びかけた。業績がコロナ前の水準に回復した企業には「3%を超える」と数字も明示した。

出だしから、あまり素敵な文ではありません。【政府はいつまで民間企業の賃上げに介入し続けるつもりなのか】…これだけで、がっかりさせられます。ただの不満を表明しているようで、情けない文です。反面教師といたしましょう。以下、中身を見ていきます。

    

2 主役の決定・文末の決定

【政府はいつまで民間企業の賃上げに介入し続けるつもりなのか】。文末がどこからどこまでなのか、明確ではありません。【政府は…続けるつもりなのか】というセンテンスであることは間違いなさそうです。したがって、文の主役はおそらく【政府は】でしょう。

主役の【政府は】が決まると、【賃上げに】という補足の言葉が見えてきます。文末は【介入し続けるつもりなのか】でしょう。【政府は…賃上げに…介入し続けるつもりなのか】というのが骨組みです。「誰(主役)は/何(補足)に/どうするのか」となります。

【賃金は労使協議で各社が自主的に判断して決めるのが原則だ】。文末は【原則だ】でしょう。しかし前の文と相まって、「原則だろうが」という汚いニュアンスを感じます。センテンスの主役となる言葉は、文末の主体となる言葉です。何が【原則だ】でしょうか。

当然ながら、【賃金は労使協議で各社が自主的に判断して決めるのが】となります。これが文の主役です。そうなると【賃金は労使協議で各社が自主的に判断して決める】の構造が問題になります。独立したセンテンスとしてみた場合、どんな構造になるでしょうか。

     

3 文構造を意識することの効果

【賃金は労使協議で各社が自主的に判断して決める】を独立した文と見るとき、文構造が問題になります。まず【労使協議で】がTPOの条件であることに気づくでしょうか。気がつけば、その先は楽です。「賃金は/各社が/自主的に判断して決める」になります。

【賃金は】が強調形です。本来は「労使協議で/各社が/賃金を/自主的に判断して決める」だったのでしょう。「賃金を」を強調するために、①文頭に出して、②助詞「は」を接続させています。「賃金を」の強調形が【賃金は】ですから、主役ではありません。

「労使協議で、各社が賃金を自主的に判断して決めるのが」【原則だ】という文の方が、明確です。無意味に強調形を使っている感じがします。おそらく無意識なのでしょう。文構造を意識することなく組み立ててしまうと、文が不明確になるリスクがあるのです。

    

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