■日本語の文法分析:主役になる言葉・ならない言葉

    

1 何が「重要」なのか

▼米国が日本や中国、インドなどと協調して備蓄原油を放出する。高止まりが続く原油価格の抑制が狙いだ。
ただし、効果は見通せない。石油市場の安定には一時しのぎの策でなく、産油国と連携し適切な需給を探ることが重要だ。

これが2021年11月24日の日経新聞社説のはじめの部分です。最後の文は何となくもやもやするかもしれません。「…を探ること」までが文の主役になっています。【一時しのぎの策でなく、産油国と連携し適切な需給を探る】の部分が文形式になっているのです。

この部分を独立した文として考えた場合、文構造がどうなっているでしょうか。文末は問題ありません。【探る】になります。【探る】を補足するのが【供給を】です。主役になる言葉は記述されていません。【供給を探る】のは誰でしょうか。

個人ではないですし「日本」でもありません。前の部分にある【米国が】ということです。【[米国が]産油国と連携し適切な需給を探ることが重要】になります。「各国が共同して」ならば、そう記述しなくてはなりません。なんだか妙な感じがします。

    

2 主役を隠す記述

【石油市場の安定には一時しのぎの策でなく、産油国と連携し適切な需給を探ることが重要だ】という部分を普通に読むと、アメリカという存在にほとんど気づかないままでしょう。しかしここで注意すべきなのは、アメリカ頼みを前提としている点です。

こんな甘ったれた感覚のままに、【重要だ】と断定するのは、妙な感じがします。「どうすべきだ」という断定なら、「誰が?」となるでしょう。しかしそうならないように、無意識のまま逃げるがごとく、何となく主張しているのです。いささか情けなくなります。

▼原油価格は1バレル70ドルを超える水準が続き、7年ぶりの高値が続く。米国は今後数カ月かけて戦略備蓄5000万バレルを放出する。

これが先の例文の続きです。【米国は】とありますから、この文章は一貫して、「アメリカがどうする・こうする」の話だということになります。日本語の場合、主役(主語)の記述は不可欠ではありません。それを利用して、何となく隠してしまうことが出来ます。

    

3 意味のない強調形

先にあげた続きの文章のなかに【原油価格は1バレル70ドルを超える水準が続き、7年ぶりの高値が続く】という文がありました。この文にも検討すべきところがあります。「Aが続き、Bが続く」という二つの文が重なる形式です。問題は前半部分にあります。

【原油価格は1バレル70ドルを超える水準が続き】の場合、主役が問題です。ここが文の区切りとするなら、【続く。】ということになります。【続く】の主体が文の主役ですから、「主役+文末」は【1バレル70ドルを超える水準が】+【続く】となるはずです。

それでは【原油価格は】はどうなるでしょうか。ここは「原油価格【が】1バレル70ドルを超える水準」か、あるいは「原油価格【の】1バレル70ドルを超える水準」です。【原油価格の水準】が主役になっています。【原油価格は】は、主役ではありません。

【1バレル70ドルを超える原油価格の水準が続き】が標準的でしょう。【原油価格の】を強調する場合、これを文頭に出して「の」を「は」に代えます。例文の場合、強調不要なものを強調形にして文意が不明確になったケースといえるでしょう。

     

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