■日本語の文法分析の実践と効果: アミラーゼ問題を参考に
1 日本語での文法分析
清水幾太郎は『論文の書き方』「日本語を外国語として取扱おう」で、フランス語での文法的分析について語っています。ご本人は外国語を学ぶ過程で、日本語の文法構造について考えることになったとのこと。日本語での文法的分析はどうあるべきでしょうか。
フランスでは小学校からスタートしています。日本語の場合も、小学生でもできる方法であって、それを発展させるとビジネス人も使える実践的な形式になっていなくてはなりません。センテンス内の言葉の役割がどうなっているのか、分析できることが必要です。
失語症の方々の様子を見るうち、言葉というのはセンテンスの理解が基礎になるのだと思いました。それも基本的なパターンをきっちり把握することが不可欠なことだと思います。ポイントとなるのは、基本となる要素がわかるかどうかということです。
2 アミラーゼ問題の説明が可能か
新井紀子が『AIvs.教科書が読めない子どもたち』で示した「アミラーゼ問題」という有名なドリルがあります。この問題を、東大生に頼んで東大のゼミ仲間に解いてもらった結果、「日本人大学院生は全員不正解。唯一正解したのが中国からの留学生だった」というのです(「教科書が読めない人」は実はこんなにいる:東洋経済online)。
▼アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
*この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを
選択肢のうちから1つ選びなさい。
【セルロースは( )と形が違う。】
(1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素
普通に文章が読める人なら、さして難しい問題ではありません。しかし実際に試してみると、不正解の多いことに驚かされます。このトリルをおやりになったことがない人は、試しに、今ここでやってみてください。答えは上記の何番になるでしょうか。
この文を文法的に分析したらどうなるでしょうか。分析の方法が合理的であるなら、なぜ、この問題に誤答が多いのかも含めて、文の構造が理解できるようになるはずです。このドリルについて、なかなか納得できる説明がなされていないのは、問題だと思います。
3 文法分析の実際例
文法分析をするとはセンテンスの要素が適切に分類するということです。「いつ・どこで、誰が、何を、どうした」を文法分析すると、【TPOの条件:いつ・どこで】【主役:誰が 】【補足: 何を】【文末: どうした】になります。実際にやってみましょう。
▼アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
*主役: アミラーゼという酵素は
*補足: グルコースがつながってできたデンプンを
*文末: 分解するが、
*主役: [アミラーゼという酵素は]
*補足: 同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは 【は←を】
*文末: 分解できない。
上記を見れば、答もわかるはずです。「アミラーゼはデンプンを分解するが、アミラーゼは形の違うセルロースを分解できない」ということですから、答えば「セルロースはデンプンと形が違う」となります。練習すれば、この程度は間違いようがなくなります。
文法分析といったところで、基礎はこの程度のものです。それほど難しいものではありません。対象となる文が、どんな構造になっているのか、それが明確にできるようになると、文章の理解力が上がってきます。それが文法的な分析をする効果といえるでしょう。