■プロフェッショナル人材育成の参考書:イェフディ・メニューイン著『ヴァイオリンを愛する友へ』

    

1 ヴァイオリンの天才:メニューヒン

ヴァイオリニストのメニューヒンをご存知の人がいると思います。クラシック音楽が好きな人なら、この人の演奏録音を聞いているでしょう。天才的なヴァイオリニストの一人です。ありがたいことに、この人には自分の演奏メソッドを記した本があります。

『ヴァイオリンを愛する友へ』という本は、知る人ぞ知るものでした。しかし、いまではもはや知らない人がほとんどになってしまったことでしょう。ヴァイオリンの練習法について書かれていながら、それだけにとどまらない内容になっています。貴重な本です。

この本の著者名は「イェフディ・メニューイン」となっています。一般には、ユーディ・メニューインと記されることが多いようです。なぜかはもう忘れてしまいましたが、何かのときに感じた愛着のために、「メニューヒン」という呼び方をしたくなります。

      

2 練習に必要な「かるみ」

この本には、魅力的な言葉がいくつもあります。[進歩のない真理はいつか滅びる。真理は絶えず、実地に検証され応用されて鍛えられ、改良されなければならない。音楽の真理も人生の真理もそれと同様である]。検証に鍛えられて真理になるというのでしょう。

こんな言葉もあります。[エネルギーと熱意を練習に注ぐのは無論悪いことではない。しかし、ありあまるほどの意志、野心、勇気を10時間にもわたって注ぎ込めば、切迫感のあまりせっかくの練習を台無しにしてしまうし、正しい勉強の方向を見失ってしまう]。

一見意外ですが、自ら検証した結果の言葉でしょう。ではどうすればよいのか…。[練習には軽い気持ちで気楽に取り組まねばならない。そしてひたむきな集中力で取り組まねばならないのだが、これはやみくもな決意などより、はるかに難しいことなのである]。

芭蕉のいう「かるみ」にあたるものかもしれません。必要なのは[継続する意思、粘り強さ、信念]であり、力が抜けているものがよいのです。不必要なのは[独善的な考え方、押しつけられた解釈、成功への野心-これらはすべて演奏の質を損なうものだ]…と。

      

3 最初から自分で勉強する姿勢が必要

『ヴァイオリンを愛する友へ』のはじめにおかれた「刊行にあたって」で、[学習には次の三つの段階がある]と記しています。3つとは、(1)お手本による模倣、(2)正規のレッスンを受けること、(3)自分で勉強すること…です。めずらしい分類ではありません。

これらに続いて、以下の言葉が語られます。[この三つの段階は別々のモノではなく、常に並行して行われるものである]。3つをステップ式で駆け上がる発想では限界があります。やはりこの本はプロフェッショナル人材を育成するための本なのです。

最初から、自分で勉強していく必要があります。自分での勉強にコメントがつけられています。[さまざまなヒント、お手本、機会、仲間・巨匠との出会い、個人研究など、ありとあらゆるものを利用する]。これあってこそ、模倣やレッスンがうまくいきます。

自分流の訓練法を考えるとき、この本は大いなるヒントになり、お手本になるはずです。原題は「Life Class」、人物画の授業という意味だとのこと。自ら実践して検証するならば、この本はとても役立つはずです。メソッドづくりの参考書というべきでしょう。

      

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