■外山滋比古『アイディアのレッスン』をどう読むか

     

1 魅力的な書き出し

時間をかけて、ていねいに本を読むのがよいと思っていたが、どうもそれだけではダメだと気がついた、乱読は役に立つ…と、外山滋比古は『乱読のセレンディピティ』で書いていました。出だしから、そうかもしれないと思わせる、なかなか魅力的な本です。

『アイディアのレッスン』でも、外山は魅力的な書き出しをしています。頭を使うにも二つの使い方がある、[一つは知識を得るため、もう一つは、新しいことを考え出すための頭である。受信と発信である]とはじまり、以下のように続けました。

▼イタリアの経済学者、社会学者のパレートは、知識を習得し、これをあとで小出しにして生きていく人間のことを利子生活者と呼ぶ。それに対して新しい考えを生み出す人のことは投機家だと言っている。新しいことを考え出すのは、イチかバチかの投機のようなものだというのであろう。 (ちくま文庫 はじめに)

日本ではどうでしょうか。これまで、[堅実な利子生活者が尊重され、投機家には白い目が向けられてきた]と展開していきます。ではどうすればよいのかと思ってその先を見ると、「まずは考える」という項目が立てられていますから、見事なものです。

      

2 自分でヒントを組み合わせていく

外山は『英語青年』という雑誌の編集長をして成功した人です。『思考の整理学』という本はロングセラーとして知られます。本作りはお手のものなのでしょう。すらすら読めますし、読むうちに、外山の言いたいことが伝わってくるように組み立てられています。

しかし気をつけないと、詰めの甘い話になりかねません。『アイディアのレッスン』でも、魅力的な書き出しが展開していきます。では、自分はどうしたらよいのかということになるのですが、具体的にどうすべきかを、外山は明確に示していないのです。

数々のヒントがあります。それをどう組み合わせていくかは自分の自由です。外山は自分の考えを記していますが、しかし自らの確信を書いているわけではありません。自らの方法を示しているヤングの『アイデアのつくり方』とは別の種類の本だといえます。

     

3 私の一筆書き

論文を書くのは[アクティブに、積極的に物事を考えてい]く[創造的活動です]から、アイディアが[浮かんだらメモ]し、[一度逃すと次はないと心得て]おくべきです。そして[メモを見返す、整理することが肝要]になります。PCの利用が便利でしょう。

新しいことを考え、それを詰めていくと[頭は緊張]しますから、[緊張した思考のあと弛緩の時間を持つこと]、寝かせる時間が必要です。そのとき別の領域との[交流がアイディアを生む]例がよくあります。こうやって仮説を生み出していくのが王道でしょう。

メモなどの[素材に酵素を加えて寝かせて酒にする][酵素法は正統的なアイディアづくりの方法]ですが、時間がかかります。一方、既存のものを組み合わていく方法も使われていて、実際[発明と言われるものの多くがこのカクテル式発明]ともいえそうです。

[アナロジーはアイディアを生み出す発見の方法]であり、[既存のアイディアを背景にすえ]て、その[ヴァリエーションをつくる][換骨奪胎の手法]も大いに使える方法です。…こんなところでしょうか。如是我聞にすぎませんが、なかなか魅力的な本です。

     

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