■画家の手法と「予期せぬ成功」:ドラッカー「イノベーションのための七つの機会」

1 イノベーションのための七つの機会

ピーター・ドラッカーに『イノベーションと企業家精神』という本があります。人気のある本です。ドラッカーはまえがきで、[イノベーションと企業家精神は才能やひらめきなど神秘的なものとして議論されることが多いが]…と注記しています。

イノベーションを起こすのは、思いつきやヒラメキなどではなくて、「7つの機会」を捉えて発展させていくことだというのです。第一が「予期せぬ成功と失敗を利用する」、第二が「ギャップを探す」、第三が「ニーズを見つける」…となっています。

以前、この7つの機会について、あまり役立つものではないと言ったところ、隣にいたマーケティングの専門家である大木英男先生が、「そうね、予期せぬ成功と失敗を利用する以外、特別な項目ではないね」とおっしゃったので、「そうです!」となりました。

 

2 予期せぬ成功と予期せぬ失敗

ドラッカーは「アイデアによるイノベーション」を、7つの機会のあとに置きます。これは「付録」であるという位置づけです。大切なのは「明確な目的意識を持って、イノベーションのための七つの機会を分析する」ことであると記しています(p.153・名著集)。

『イノベーションと企業家精神』は1985年の本でした。その後ドラッカーは、予期せぬ成功と失敗について、1994年に発表された後期の代表的な論文である「企業永続の理論」でも触れています。組織を蘇生させた「奇跡を起こす人たち」がどうであったのか…。

▼彼らは、診断と分析から始める。目的の実現や急速な成長には、事業の定義の見直しが必要であることを知っている。予期せぬ失敗を部下の無能や偶然のせいにしない。システムの欠陥の兆候と見る。逆に予期せぬ成功についても、自らの手柄とせず、自らの前提に課題が生じていると見る。 p.62・『チェンジリーダ―の条件』

ドラッカーも、7つの機会に順番をつけていました。第一の機会がポイントでしょう。「予期せぬ成功に気づくこと、それを分析すること」が一番大切であり、意識すべき機会として、これに集中すべきではないか…、そのほうが実際的であると思ったのでした。

 

3 画家は予期せぬ成功に焦点を当てる

画家が、偶然を利用して作品を作り上げていくという話を、先日書きました。画家はこれをずっと継続して行っています。絵を描くという活動の中に、組み込まれた恒常的な行動です。画家が「偶然うまくいった」というのは、予期せぬ成功ということでしょう。

あれこれ苦しみながら描くうちに、偶然うまくいく場合が出てきます。その偶然を捉えるのです。ドラッカーの言葉にある「診断と分析」なのかもしれません。大切なことは、予期せぬ成功のみを拾い上げている点です。失敗はいつもしているということでした。

構想力を考えるとき、一流の画家たちの方法がヒントになると思います。失敗から学ぶよりも、成功から学ぶほうが実力に直結するはずです。ドラッカー自身、『傍観者の時代』で、成功から学ぶことにしたと記していました。成功に焦点を当てるべきです。

画家たちは、偶然に上手くいくことが重なると、実力がついてくると言います。これは画家たちにとって当たり前のことのようです。偶然うまくいったときに、それに気づいて、何でうまくいったのだろうと考えることが、力をつける一番の基礎なのかもしれません。

 

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