■ビジネスにおける哲学について:定量化とフィロソフィー

1 哲学と価値観

ビジネスと哲学とは、何か関係しているのでしょうか。ビジネスの場合、ビジネスの哲学という言い方をしながら、その内容はたいてい明確ではありません。ビジネスで哲学を言うときには、社会科学の中心的な学問である経済学の発想としばしば対立します。

哲学と経済学とで発想の何が違うのか。いささか大雑把な話ですが、大きな違いは定量化の問題ではないかと思います。哲学は定量化する発想がありません。経済学は定量化を基礎においています。価値の入り込む思考と、価値の入り込まない思考に分かれます。

マックス・ヴェーバーが社会科学に価値を入れないようにと主張し、ピーター・ドラッカーが経済学が役立たないと主張するのも、結局のところ、基本となる発想の違いによるということでしょう。両方必要ではありますが、どちらに重点を置くかが問題です。

 

2 定量化による安定性

定量化できる領域は、客観性がある程度確保されます。安定的ですし、確率が予測できますから、対策が立てられたり、確率の高いものを選択できるという点で有利です。高度な計算が必要かもしれませんが、それも少しずつ克服できるようになっていくでしょう。

経済学の発展は、各国経済の運営にも裏づけを与えていますから、当然のこと、最低限の基礎的なことは知らないわけにはいきません。同時に、各企業は他社との差別化をしていかなくてはなりませんから、当然、客観性のある答えだけではまずいことになります。

客観性のある答えは、同じ材料からなら、誰がやっても同じ答えにならなくてはおかしいものです。これではビジネスの場合、勝ち抜いていけません。どうしても各企業ごとに、自社にとっての価値に基づいて、独自性を示す必要が出てくるのは当然のことです。

価値判断の入り込む領域を純化させていくと、企業理念とか、企業のミッションとか、組織の目的とか、志とか、こういった客観性を確保できない概念が必要になってきます。主観的なものになるために、民主的な決定にはなり得ません。当然、不安定です。

 

3 哲学があればリスクが取れる

堀場雅夫は1998年の『堀場雅夫の経営心得帖』で[ベンチャーの動機づけは、自分が本当の自己実現のためにアクションを起こすということ以外の何ものでもない]といい、[ベンチャーを志す人の自己実現とは、すなわち自分の哲学そのものである]と記しました。

堀場は[学問がすべて哲学だということから考えていくと、自然科学と経済にも深い関連があることに気づく]、[哲学につながる線で結ばれている]というのです。そしてアメリカのアスペン研究所のカリキュラムを見て、感心するだけでなく脅威を感じています。

▼ここではプラトンとかアリストテレス、孟子、孔子らの原書を読ませて、哲学教育をやっている。企業経営のベースとして、まず個人の価値観を確立することに教育の中心が置かれているわけである。(pp..221-222)

[教育を受けているのが、次の時代にはアメリカ経済のトップになる人たちだという点][彼らが教育によって、明確なフィロソフィーを持って企業を経営するようになること]に脅威を感じたのでした。不安定でも、哲学があればリスクを取るに違いありません。

 

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