■現代中国の社会主義経済:その後について小室直樹の予言

1 法の支配・国際法の理解

日本に来ている中国の留学生に、反日の学生などほとんどいない。まじめで優秀な学生ほど、日中友好のためにと考えている。そしてたいていの学生が、驚くほど同じように中国は誤解されていると言う。誤解を解いて、友好関係を促進したいと考えている。

学生たちは、中国は友好を求めていると信じている。そのため国際的に孤立化しそうになっていることに戸惑っている。日本に留学する学生たちは、日本に対しての期待がある。同時に学生は「法の支配」が理解できない。「国際法」とは何かを全く知らない。

▼「法の支配」にいう「法」は、内容が合理的でなければならないという実質的要件を含む観念であり、ひいては人権の観念とも固く結びつくものであったことである。これに対して、「法治国家」にいう「法」は、内容とは関係のない(その中に何でも入れることができる容器のような)形式的な法律にすぎなかった。 芦部信義『憲法』

法の支配というときの「法」は、自由主義的で民主的な内容でなくてはならない。ここでは司法の独立が大前提になっている。違憲審査制が採用されることも当然のこととされる。こうした法の概念について学生たちは、何だか根本的に理解不能な様子である。

 

2 困難な「腐敗問題」の解決

ヴォーゲルは『鄧小平』で[腐敗問題を、きちんと法律を作って解決する](p.239)と指摘した。橋爪大三郎が「一言で言うと、司法の独立っていうことですかね」と確認するのに対して、ヴォーゲルは「うーん、司法も含む」(p.240)と苦しい答えをしている。

橋爪は言う。[今は裁判官も、裁判所の党委員会があって、みな党の統制下にあります。党の統制下にある裁判所が判決を下すのでは、党に不都合な裁判はできないです]。[司法機関に関しては、党委員会をつくらない。党の統制から外す、と](p.240)。

両者とも、これが現在の中国共産党政権下で可能だとは思っていない。ヴォーゲルは[腐敗を根絶しようにも、腐敗の根はあまりに深い](p.231)と言い、橋爪は[そんなの無理だと思いますけどね。腐敗は、共産党の組織ぐるみなんだから](p.233)と言う。

ヴォーゲルが言う通り、[国民は、指導者を支持するのに、腐敗をやめろ、腐敗をすぐ何とかしてほしい、と思っている](p.231)のだろう。それは無理である。いつか、どこかの時点で[後継者が、ちょっとやりそこなったら、大変だ]ということになる(p.238)。

 

3 近代資本主義ではない「資本主義」

1983年、すでにソビエトは崩壊し、社会主義は「資本主義」になると小室直樹は考えていた。『日本の「1984年」』でソ連崩壊後に現れる[その「資本主義」とは、いかなる資本主義か]を問うている。[ソ連における弁護士の活動をしらべてみた](p.240)という。

[ウラ経済がばれて当局にパクられる]場合、弁護士は対応できるが、ウラ経済同士の場合、[弁護士活動の場がない]。[その解決のためには、国家の法律]という[普遍的市民規範は使用されない]、[前近代的な共同体の規範を用いるしかなくなる](p.241)。

したがって[ソ連胎内の「資本主義」は、近代資本主義ではない]。近代化をするためには、法の支配、司法の独立、違憲審査制、複式簿記、国際法遵守などを機能させることが必須条件である。中華人民共和国の場合も、解決はきわめて困難というべきだろう。

 

 

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