■使える文法の条件:町田健『まちがいだらけの日本語文法』を参考に その2

1 一般向けのガサツな議論

文法の本に限らず、多くの分野で用語をどう言い表すかで苦労することがあります。用語をどういう名前にするかということです。さらにその用語をどう定義するかということも問題です。上手くいかないと、基礎になるはずの用語が定着しないまま終わります。

町田健『まちがいだらけの日本語文法』にある用語は、見るからに使われそうにない新しい用語を使っていました。おそらく誰一人としてこれらの用語を使うことなどないでしょう。新書ですから一般向けの本のはずです。わからなかったのでしょうか。

操作マニュアルなら、使えない場合、クレームになります。使いにくいとか、必要なことが書かれていないとか、必要項目が見つけずらい、使い勝手を考えた記述になっていない…いくらでも批判されます。文法の本の場合、無視されるだけで終わりでしょう。

厳格な議論をするはずだと思われがちな学者の人たちが、一般向けの本を書くときに、ときとして際限もないほどガサツ…といいたくなるほど、ひどい話をすることがあります。どう記述したらよいのかわからないのかもしれません。困ったものです。

 

2 操作マニュアルでの記述例

操作マニュアルなら、失敗したらダメが出ます。こういうときのダメの出方の傾向から、一般の人向けに書かれた文法の本を考えてみると、ヒントが得られるかもしれません。たとえばマニュアルの基礎的な注意点として、用語の統一ということがあります。

マニュアルでも文法書でも、用語の統一は不可欠です。日常使う言葉なら別ですが、ある種の概念を示すキーワードの場合、定義とともに用語名が統一されていなかったら、全くお話になりません。そしてマニュアルの場合、ここにもう一つのポイントが加わります。

用語をなじみのある言葉にすることです。マウスという用語はひとまずよしとしましょう。「マウスを右クリックする」という言い方をどうするか、かつて問題になったことがあります。このとき、「右ボタンを押す」という言い方なら誰もがわかったのでした。

 

3 マニュアルなら完全にアウト

町田健『まちがいだらけの日本語文法』では、述語でなく述語句という言い方をよしとしながら、その数ページ後に[述語が表す事柄の枠組み]という記述が出てきます。そして事柄の枠組みの中には、「主体」と「対象」が[必ず含まれています]とあるのです。

町田がだした例文は「男が花を見た」のただ一つです。主体が「男」で、対象が「花」だとのこと。そうなると「男が花屋に行った」と言うとき、「花屋」は対象にあたるのかどうか不安になります。「男が花見に行った」の場合、「花見」は対象なのでしょうか。

「男が眠っていた」という例文の場合、主体は「男」で、「眠っていた」は述語句ですから、「対象」に該当する言葉がありません。事柄の枠組みに該当するのかどうか、このへんの説明がないのです。マニュアルなら、完全にアウトということになります。

 

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