■社会主義経済の行方-現代中国の場合 その2:『鄧小平』と『ソビエト帝国の最期』を参考に

4 中国共産党の基本政策

毛沢東の経済政策では、チャイナ経済は発展するはずない。しかし毛沢東批判をしてはいけない。そうなると鄧小平はどうすればよいのか。まず毛沢東の著作から、現実が真理を判断する基準になるという意味の「事実求是」を引っ張ってきた(『鄧小平』P.164)。

毛沢東の一番根本的なことは、新しいことを実験してみようということである。こうした精神からすれば、新しい実験をする過程で、毛沢東と違ったことをやってみたとしても、[毛沢東が生きていたら、きっとそれを許すだろう]。こんなロジックを立てた。

こうして改革開放が中国共産党の基本政策になった。同時に政治における基本路線を変えない。[国を実際、指導するのにね、これまでの考えを続ける、毛沢東の考えを続ける、というのは、有効なのです](P.167)。これが現代中国の基本路線となっている。

 

5 中国国民の2つの視点

鄧小平は共産党のためというより、国のためという考えをもっていたから、中国のために必要なら、民主主義でも構わないと考えただろうとヴォーゲルは推測している(P.168)。しかし天安門事件が起こって、政治のあり方と経済のあり方の乖離が広がっていく。

天安門事件でも、鄧小平のロジックは全国を統一するためのロジック(P.206)であった。しかし国際ルールに反していた。[鄧小平と共産党のロジックは、相手が、悪いことをしそうになったら、その前に罰する](P.207)のである。国内秩序維持が最優先される。

阿片戦争以来、国家統一の難しさを身にしみている国民は、以来2つの方向に進んでいく。今は国のために何もしないで、自分の仕事や将来に専念した方がいい(P.215)、同時に、国の経済成長が確保されるなら指導層を信頼しよう(P.229)ということである。

 

6 頼りにすべき『ソビエト帝国の最期』

ヴォーゲルは中華人民共和国の今後について、[もっと民主主義の国になる可能性が大きい]という期待を述べながら、同時に[将来は、問題はまだ大きい](P.230)という。その先は、学者としての立場が出てくる。可能性については述べませんということである。

▼学者は、事実はこういうことだったと、そういうことは言える。もしそれが違ったらどうなったかということは、まあ、学者として、言うことが出来ないんですね。ですからボクは、考えられるということしか言えない。 P.221

ヴォーゲルが『中国共産党の最期』といった本を書くことはないということである。ビジネス人は専門家でなくても、どうなるのかを明確にしたレポートを書かなくてはならない。打席に立って結果を出そうとするとき、小室直樹を頼りにしたほうがよさそうだ。

『ソビエト帝国の最期』で言う。[いま、ソ連は、極めて重い病気にかかっている。このまま放置しておけば、必ず死ぬだろう](P.16)、[ソ連経済の病状は、全身に移転した癌みたいなもので、これはいまやどうにもならない](P.137)。1984年の文章である。

 

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