■「顧客の創造」と「企業家精神」 その3

7 組織としての企業の理論

シュンペーターの生まれたのは1883年でした。『経済発展の理論』は1912年に出された本ですから、まだわれわれが見るような組織は確立していなかった時代の本です。組織の概念が確立されていないときの「企業家」は、いまわれわれが考える企業家とは違います。

シュンペーターよりも遅れて、1899年に生まれたハイエクも、まだ組織が確立していない時代に理論を組み立てたことになります。ハイエクの理論に対して、青木昌彦の下した評価は、ある程度、シュンペーターに対しても当たっているかもしれません。

▼ハイエクにとって、企業は企業家個人にすぎないのであって、組織としての企業の理論がないのである。 『移りゆくこの十年 動かぬ視点』 p.161

まだ組織が十分に確立していないときですから、シュンペーターのいう「企業」というものの実質は、現在のわれわれの感覚とは違うはずです。しかし、シュンペーターは天才だったのかもしれません。「企業」を機能の側から定義しているのです。

 

8 シュンペーターの天才的洞察

シュンペーターは『経済発展の理論』で、「企業」の概念を[われわれが企業(Unternehmung)と呼ぶものは、新結合の遂行およびそれを経営体などに具体化したもののこと]と定義しています。ここにある「新結合」とはイノベーションのことです。

さらに「企業家」については、[企業者(Unternehmer)と呼ぶものは、新結合の遂行を自らの機能とし、その遂行に当たって能動的要素となるような経済主体のことである]としています。こうした概念であるならば、現代でも通用するはずです。

イノベーションを行う人たちが、たんなる集団でなく経営を行う組織にしたものが「企業」だということ、イノベーションを行うことを自らの役割だと自覚して、積極的に能動的に働く主体が「企業家」ということになります。お見事というしかない定義です。

 

9 マネジメントへの継承

ドラッカーは、父の友人だったシュンペーターを当然知っていました。亡くなる前に父親とともに見舞っています。シュンペーターの理論を十分に意識したうえで、『現代の経営』を書いたはずです。「企業」の実質がなんであるのか、それが問題でした。

シュンペーターのいう「アントレプレナーシップ・企業家精神」に実質を与えるなら、この機能、役割を発揮した結果としてあらわれてくる「顧客の創造」がポイントになります。ここからあるべき組織の概念が構想され、マネジメントが体系化されていきました。

マネジメントでの対象は、企業、営利組織に限らず、非営利組織にまで適応されることになります。非営利組織でもイノベーションが行えるし、行うべきであるということです。経済理論が、ここでマネジメントの理論として発展し、確立していくことになります。

ドラッカーは、マネジメントを機能として捉えることからスタートして、その実質を体系化していきました。機能を発揮するための体系がどんなものであるのか、その対象を企業からスタートして、あらゆる組織、あるいは個人にまで拡大させたと言えるでしょう。

 

 

カテゴリー: マネジメント パーマリンク