■目標の立て方:ドラッカー『マネジメント』体系への疑問

1 変化を当然とする動的な経済

ドラッカーの場合、1954年の『現代の経営』でマネジメントを体系化し、それを1973年の『マネジメント』で発展させている。その後、ドラッカー・マネジメントの体系はさらに発展した。体系が変わったのは、「顧客」という用語の扱いを見てもわかる。

目標についてみていくと、『マネジメント』の考えと1994年の「The Theory of the Buisiness」では、基本となる考えに違いがある。事業の定義の概念が違う以上、その先の目標の立て方が違ったものになるのは当然かもしれない。

事業の定義をして、マーケティングの観点からまとめる。これはビジネスを静的な概念として整理することである。これを動的な概念に変換する作業が必要になる。それが戦略であった。ビジネスモデルになる仕組みを構築し、ビジネスの概念を動的なものする。

以上は、現実のビジネスを見れば明らかである。『マネジメント』でも、マーケティングを静的な概念としていた。[静的な経済には、企業は存在しえない]から[変化を当然とする経済]に適応させる必要があった。そのために戦略は目標に先行することになる。

 

2 『マネジメント』の4つの階層

ではドラッカーは、どう考えていたのだろうか。『マネジメント』には、目標をめぐる体系がどんなものであるかが示されている。しかし上田訳の「上」を読んでも気がつきにくい。上田惇生編集の『チェンジリーダーの条件』では、この部分は除かれている。

▼事業の目的とミッションについての明確な定義だけが、現実的な目標を可能とする。優先順位、戦略、計画を可能とする。マネジメントの職務と構造を可能とする。組織は戦略に従う。戦略が事業における基幹活動を規定する。その戦略が、「われわれの事業は何か。何でなければならないか」を知るべきことを要求する。 上・p.92:名著版

4つの階層になっている。第1に「事業の目的+ミッション」の明確な定義をすること、第2に目標を設定すること、第3に「優先順位、戦略、計画」を決定すること、第4に「マネジメントの職務と構造」を決めること。以下の有賀裕子訳なら明確である。

▼使命と目的を明確に定めて初めて、現実的な目標がくっきりと浮かび上がってくる。その目標を土台にして優先順位、戦略、プラン、仕事の割り振りなどを決めると、これらを出発点にして、マネジメント層の仕事、さらにはその組織を検討できる。組織は戦略に従う。戦略こそが、それぞれの事業においてどの活動を重視すべきかを決定づける。そして戦略を定めるためには、「自社の事業は何か、何であるべきか」を押えておかなくてはならない。 Ⅰ・p.205:日経BPクラシックス

以上に見る通り、[1]「使命+目的」を明確に定め⇒[2]「現実的な目標」を明確化する⇒[3]「優先順位、戦略、プラン、仕事の割り振りなどを決める」⇒[4]「マネジメント層の仕事、さらにはその組織を検討」、ドラッカーはこうした体系を採っている。

 

3 「戦略」概念の混乱

『マネジメント』では、まだ「使命」の概念が明確になっていない。この概念を明確化したのが、1990年の『非営利組織の経営』においてであった。この概念が不明確であったために、「事業の目的とミッション」「使命と目的」という並列になっている。

「The Theory of the Buisiness」では、「事業の定義」に必要な要素として「使命」が求められている。したがって「使命」の明確化が先行することになる。「使命」⇒「事業の定義」というステップで考えるということである。次のステップが問題となる。

『マネジメント』の体系では、「目標」⇒「戦略」になっている。さらに戦略が「計画(プラン)」と階層を明確に分けられていない。いきなり目標の設定に向かい、目標が決まれば、個々の目標を達成するための戦略が決まってくるという考えである。

戦略という言葉は多義的ではある。しかし総合的な概念であることは間違いない。ここでの「戦略」はどちらかというと「戦術」に近い。一方[組織は戦略に従う]というとき、本来の戦略概念なのであろう。『マネジメント』は過渡的な本だと言えそうである。

 

This entry was posted in マネジメント. Bookmark the permalink.