■仕組みを作る理由 :リーダーになってしまった人へ その9

1 アリストテレスのいう目的と目標

目標を達成するために、組織の仕組みを作る必要があると言われると、少し大げさに聞こえる。実際のところ、目標を達成する際、いままでの組織で、いままでのやり方で、ほとんど同じ仕組みのまま、新たな目標を掲げて、実践していくことは、めずらしくない。

ここで、目標という概念を、もう一度確認しておくべきかもしれない。例えば、アームソンの『アリストテレス倫理学入門』を見ると、説明の仕方から、目標と目的の違いが分かる。両者がどう違うのか、以下を見ると、感じ取るものがあるにちがいない。

▼「すべての技術、方法、行為、および決定は、何らかの善を目標とする」とアリストテレスは言う。この説に対して次のような反論が考えられる。まず、人々にとって望ましく見える目的が、現実には悪い場合があるという問題がある。これは重要な問題であり、アリストテレスもこの点について後に論じている。 p.15

アリストテレスが「善を目標とする」と言っているのに対して、反論では「望ましく見える目的」という言い方になっている。ここでは、目標に対して、目的を問題として提起している。アリストテレスがそれに応じているのだから、それはおかしくないのだろう。

 

2 目的と行為

アームソンは、アリストテレスの考えを簡潔に説明している。[数学は常に完全な正確さと厳密さを必要とするが、他の多くの分野では大雑把で概略的な法則だけで十分であり、そこに例外が伴うのはやむを得ない](p.15)という考えなのである。

▼人は何かよいことのために、あるいは少なくとも、価値があると認められる目標のために行動する、というアリストテレスの考えはだいたいのところ正しいとすべきであろう。この考えの核心は、人が通常何かをする時、「なぜそれをするのか」という質問に答えられるはずだ、というところにある。すなわち、人間の行動はすべからく無意味ということはない。 p.16

これを見ると、おそらく目的と目標の違いに気がつくことだろう。なぜ(why)が目的であり、それは[目標のために行動する]理由、原因であるということになる。まず目的があり、それが目標のための行動に結びつく…ということである。

これを逆転させると、刑法における目的的行為論のように、行動を含む人間の行為(あえてその場から動かない…なら行動ではないが行為である)を、「人が目的をもって行う動静」と定義することになる。人の行為を引き起こす要因が目的だとする見解である。

一般に、何らかの「なぜ」が行動を生む…と考えることは可能である。その「なぜ」が目的であり、一方、行動内容を決め、行動にかりたてるものが目標である。哲学では、目的と目標が密接に関連する。マネジメントは両者を切り離し、ここに橋をかけるのである。

 

3 反復される仕組み

マネジメントは、営利にも非営利活動にも適応され、組織でも個人でも必要となる。ビジネスでは、業務を反復することが前提になっている。個人の場合ならば、習慣がそれに該当する。反復する行動のために、モデルが必要となり、仕組みが必要になる。

アームソンは事例をあげる。[音楽を聞いたり、美術館を歩きまわったりするのは、したいからしているのであって、それ自体が最終目的である](p.16)。こうした行為は、マネジメントの対象外である。したいからするという行動に、マネジメントは介入しない。

別の事例が示される。[目的地に着くという目的のためにのみ電車に乗る](p.16)。こちらの場合、目的のために選択された目標は[電車に乗る]ことである。これよりも良い方法、仕組みがあれば、電車に乗らなくなる。よい選択の結果が目標に結実するのである。

マネジメントは、反復することに対して、仕組み作りを求める。反復するものの場合、繰り返されるがゆえに、大きな差を生むことになる。仕組みの出来具合が大きな影響を与えるのである。何となく繰り返していてはいけない。これがマネジメントの原則である。

 

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