■目標の決定条件 :リーダーになってしまった人へ その8

1 個人の美徳の上

価値観は、個人の問題である。個人が決めずに多数決によって組織の目的を決めることは、けして標準的ではない。まずありえないことである。組織の将来を託すにふさわしい個人、つまりはリーダーの信念によって、組織の目的を決めるしかない。

創業者やオーナーが組織の目的を決める場合、そのカラーが組織全体に色濃く表れる。こうして決まった目的は、組織全体の目的となる。あるいはプロジェクトごと、部門ごとに目的が決められる場合、使命・ミッションと呼ばれることになるだろう。

こうした目的、使命・ミッションにおいて、その内容を決めるときの条件がある。この点を一番明確に主張したのが、『現代の経営』におけるドラッカーだった。マンデヴィルの言葉「私人の悪徳が公益となる」を引いて、語っている。

ドラッカーは、[利己心は、無意識的かつ自動的に、公共の利益となる]という意味であると確認して、[そのような考えによっては、社会は永続しえない]と言った。[公共の利益はつねに個人の美徳の上に実現されなければならない](選書下:p.316)のである。

 

2 意思の集中が可能になる条件

「個人の美徳」という言葉は、「個人の信念」であり、そのとき「個人の良心に従う」ということである。[あらゆるリーダー的存在が、「公共の利益が自らの利益を決定する」といえなければならない](選書下:p.316)と、ドラッカーは念を押している。

仕事の目的を決めるのはリーダー個人であり、その良心に従って、美徳といえる目的を決めることになる。こうした美徳を目的とすることは、意思を集中させるときに、大きな効果となる。安心して気持ちよく全力を出し切れるようにするためである。

意思の集中が行える条件を整えて、そのベクトルに合致した具体的な行動を決定する。それが目標になる。目標の決定には、大きな見通しが必要であり、それがビジョン・構想である。これをモデル化したものが戦略であり、その最大の達成地点がゴールになる。

 

3 5つの検討項目

大きな見通しをつけるために、検討すべき項目がある。(1)われわれをめぐる環境がどうであるか、(2)われわれの能力はどうであるか、(3)ターゲットにする顧客はどういう人たちであるか、(4)顧客の求めるものは何か、(5)何をわれわれは達成したいのか…など。

こうした検討項目を、ドラッカーは『経営者に贈る5つの質問』で、「①顧客、②顧客にとっての価値、③われわれの成果」に絞り込んで、問いかけている。ドラッカーが、もし5つの質問に追加するなら、われわれの強みは何か…と問いたかったのではなかろうか。

ビジネスの戦略を立てるのならば、(1)ビジネス環境を見て、(2)自分達の強みを客観的に見て、(3)顧客獲得の可能性・確率を見通し、(4)顧客の利益になるものが何かを選択し、(5)自分達がどんな状況になることを目指すのかを明らかにしなくてはならない。

ここまでは、いわば分析である。これらの項目を素材にして、仕組みへと組み立てていくことになる。これが業務あるいはビジネスの構築である。リーダーは、よき目的に裏づけられた具体的で反復可能な行動を組み立てて、目標を達成していく責任を負うのである。

 

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